東南アジアで「今なにが動いているか」を毎週追うトレンドウォッチ。今週は7月19日に閉幕したFIFAワールドカップ2026で存在感を放った「ラブブ」を起点に、ポップマートの脱ラブブ戦略と、同じ「キャラで集める」熱に乗る日本のアニメ・キャラグッズの越境需要を掘り下げます。あわせて、6月に始まったインドネシアの手数料半減が越境セラーに引いた一線も整理します。
ワールドカップを彩ったラブブ——熱の中心は「特定キャラ」から「キャラで集める行為」へ
FIFAワールドカップ2026(6月11日〜7月19日開催、決勝はスペインがアルゼンチンを1-0で下して優勝)で、ピッチ外の話題をさらったのがポップマートの「ラブブ」でした(Wikipedia)。6月18日付のBusiness Todayによると、ラブブは中国発の玩具IPとして初めてワールドカップの開会式イベントに招かれ、BLACKPINKのLisaが出演する公式アンセム映像にも登場。ポップマート×FIFAのコラボ商品は1個150ドルで発売され、発売から数時間で40カ国以上で完売しました。限定モデルの二次流通ではこれまで最高7,000ドル規模で取引された例もあると報じられています(Business Today)。
ただし、越境セラーにとって重要なのは「ラブブ一強」の構図がすでに動いている点です。ブルームバーグ(Bangkok Post、3月16日付)によれば、ポップマートは2025年に4億個超の玩具を販売し、そのうち約4分の1(約1億体)がラブブを擁する「The Monsters」シリーズ。ラブブは海外売上の半分超、一部の欧米市場では7割超を占める「集客の要」であり続けています(ドイツ銀行分析)。一方で過熱は落ち着き始めており、米国の前年比成長率は前月の130%から2月には40%へ鈍化(ブルームバーグ・セカンドメジャー)、香港上場株は昨年8月のピークから約4割下落したと同記事は伝えています(Bangkok Post)。
代わりに伸びているのが新キャラクター群です。2024年下半期にデビューした「Twinkle Twinkle」は2025年上半期に世界で3.9億元(約18億バーツ)を売り上げ、同社最速級の成長株に。「Crybaby」の一部プラッシュは中国の二次流通で定価比72%高で取引された例もあります。東南アジアに直接関わる数字として、2025年12月11日からの28日間で、CrybabyとTwinkle Twinkleがタイ・インドネシアのポップマートTikTokショップの売上上位20品目のうちそれぞれ28%・51%を占めたとのデータ(華泰証券)も示されています(Bangkok Post)。
セラー視点: 上記の売上構成は昨年末〜今年初のデータで、いまこの瞬間の順位ではありません。それでも読み取れる構造は明確で、東南アジアの熱は「ラブブという特定の人形」ではなく「ブラインドボックスでキャラを集める行為」そのものに宿り、その対象が分散し始めています。ラブブ本体の転売差益を追うのは供給・模倣品・相場変動のリスクが高い一方、「再入荷即完売」を生む希少性設計とキャラIPの収集需要がタイ・インドネシアで定着している事実は、次のピック(日本のキャラグッズ)を読む土台になります。
同じ「キャラ熱」の日本レーン——アニメ・キャラグッズの越境需要
ポップマートの熱と地続きにあるのが、日本のアニメ・キャラクターグッズです。Shopee Japanが7月17日に公開したコラムは、海外で売れる日本のキャラグッズを整理しています。マレーシアでは「鬼滅の刃」「ワンピース」が動き、台湾は総じてアニメ需要が旺盛。商材としては、フィギュア・ぬいぐるみ(特に限定・ヴィンテージ品)、ポケモンや日本のカードゲームといったトレーディングカード、そしてマンガ・キーホルダー・スマホケース・Tシャツ・タオルなど購入ハードルが低くリピートしやすい日用グッズ、さらに日本限定・レトロゲームソフトが挙げられています(Shopee Japan)。
このコラムはShopee自身による定性的な解説で、具体的な販売数字は示されていません。裏付けとなる数量データは、越境代行Buyeeを運営するBeenosが2025年3月に公表した2024年通年の集計が参考になります。それによると、Buyee経由のアニメ関連越境流通額は2024年に前年比46%増。アニメグッズは越境購入全体の29%(前年25%)を占め、地域別では東南アジアが44%増、ラテンアメリカが58%増でした。人気タイトルは「ワンピース」が首位(6地域中5地域でトップ)、「ちいかわ」が2位、「ポケモン」が3位です(Animenomics)。
セラー視点: ポップマートの土俵(ブラインドボックスの一次流通)は日本の越境セラーが正面から戦う場所ではありませんが、その隣にある「日本IPの正規・本物グッズ」は日本発だからこそ勝てるレーンです。高単価のフィギュア/限定品、コレクター需要が続くトレカ、レトロゲーム、そして低単価でリピートしやすい日用キャラグッズ——このレンジで自分の仕入れルートに合う商材を当てはめる価値があります。数量の裏付けが2024年通年データである点(2025年3月公表)には留意しつつ、正規品・ライセンスの確認と模倣品との差別化を前提に組み立てるのが現実的です。
インドネシアの手数料半減、越境セラーは対象外——価格競争力の分岐点
商材の話から一歩引いて、売り場の条件そのものが変わった動きも押さえておきます。MOCA Technologyが7月2日に報じたところによると、インドネシアでは6月17日から、Shopee・TikTok Shop・Lazadaがプラットフォーム手数料を最低50%引き下げる優遇を開始しました。ただし対象は、インドネシア国内登録の認証済み零細・小規模事業者(中小零細企業省の認証ポータルSapa UMKM経由)が「国内製造品」を売る場合に限られます。越境ステータスのセラーは注文量にかかわらず対象外で、輸入品・非国内製品を出品するとプラットフォーム側が優遇を停止できるとされています。あわせてTikTok Shopインドネシアは5月22日・6月2日にコンテンツ/出品ポリシーを厳格化し、アカウントヘルスレーティング制度を導入しています(MOCA Technology)。
インドネシアはTikTok Shopの東南アジアにおける成長の牽引役とされる大型市場です(Magpie IQ、6月30日付レポート)(Magpie IQ)。
セラー視点: なお、Shopeeの日本発越境はシンガポール・マレーシア・フィリピン・タイ・台湾の5カ国が対象で、インドネシアは含まれません。したがってShopee経由でインドネシアに直接影響が及ぶわけではありませんが、TikTok Shopやその他ルートでインドネシアを狙うセラーには、国内セラーとの手数料差という構造的なコスト差が生まれます。より重要なのは方向性です。「国内・国産を優遇し、越境を線引きする」政策姿勢が東南アジア最大級の市場で明確化したこと自体が、他国へ波及しうるシグナルとして見ておく価値があります。
今週の東南アジア全体のニュースは週刊ダイジェスト2026年7月号(w30)にまとめています。ポップマートの新キャラが今後も熱を保てるか(3月時点では一部の新デザインに「印象に残らない」との反応も報じられました)、そしてインドネシアに続く「国内優遇」の動きが他国に広がるか——この2点が次に見ておきたい動きです。
