今週は大きな制度変更こそなかったものの、「どの国の消費者が今どんな気分か」「買い方がどう変わっているか」という需要側の地図が2つの調査で更新された週でした。UOBの消費者心理調査は国ごとの温度差をはっきり示し、DHLの調査はAPACの買い物客の4割がすでにAIツールで買い物をしている実態を映しています。売り場側では、LazadaがShopeeに続いてMeta連携を打ち出し、ライブ×クリエイター販売の「外部化」競争が2大モールで出揃いました。シンガポールのShopeeアプリはすでに8.8モードに切り替わっており、来週は今年後半戦最初のダブルデーです。末尾の短信では、マレーシアの国内セラー支援策、Sheinの四半期赤字、AliExpressへのEU制裁金を圧縮してまとめます。
ASEAN消費者マインドの国別地図——ベトナム首位、シンガポール急回復、インドネシア最下位
UOBが7月24日に公表した「ASEAN消費者心理調査(ACSS)2026」は、2026年5〜6月にインドネシア・マレーシア・シンガポール・タイ・ベトナムの18〜65歳、5,000人を対象に実施されたものです。地域全体の指数は54で前年から横ばいでしたが、国別の内訳には明確な温度差が出ました(The Manila Times)。
- ベトナム: 63(前年比-4) — 低下したものの依然として域内首位
- シンガポール: 56(+9) — 域内最大の改善幅
- タイ: 51(+4)
- マレーシア: 50(-3)
- インドネシア: 49(-6) — 最大の下げ幅で域内最下位
シンガポールの回復について、Singapore Business Reviewは7月27日、「現在の経済への肯定的な見方が16ポイント上昇して66%、先行きへの自信も13ポイント上昇して63%」と伝えています。2025年9月の前回調査ではシンガポールは47と域内最低だったところからの反転で、背景としてAI関連需要が製造業や卸売、運輸を押し上げ、サービス業にも波及した上半期の成長が挙げられています(Singapore Business Review)。一方、家計の実感を映すパーソナルファイナンスのサブ指数は域内全体で52から51へ微減しており、生活費・減収懸念・長期の支払い負担への不安は残ったままです(The Manila Times)。
セラー視点: 消費者心理はそのままECの売上に直結する数字ではありませんが、市場ごとの「財布の開きやすさ」の体感温度として使えます。日本発Shopeeの出品対象であるシンガポールの急回復とタイの改善は素直に追い風側、マレーシアの微減は据え置き、インドネシアの沈み込みは先週のトレンドウォッチで整理した「国内優遇・越境線引き」の政策とあわせて、慎重に見る材料が増えた形です。
「AIで買う」が4割——買われ方の変化は商品ページに跳ね返る
DHLが7月16日にアジア太平洋版の結果を公表した「eCommerce Trends Report 2026」(DHLリリース)によると、アジア太平洋のオンライン買い物客の約40%が、すでにチャットボットやバーチャルアシスタントといったAIツールをカスタマーサービスや商品リコメンドに使っており、さらに37%が今後の利用を予定しています。事業者側の導入は80%に達し、用途はパーソナライズされた商品推薦、レビューや画像の比較が中心です(Retail Asia)。調査対象はオーストラリア・中国・インド・マレーシア・タイの5カ国で、東南アジアからはマレーシアとタイが含まれる点は割り引いて読む必要があります。
同時に信頼の壁も数字に出ています。62%がプライバシーを懸念し、50%はAIレコメンドの正確性を疑問視。事業者側も同様の懸念を示しつつ、今後5年では需要予測・バーチャル試着・不正検知へのAI活用拡大を見込んでいます。またサブスクリプション型の購買も広がっており、回答者の大半が少なくとも1つの定期購入を持ち、35%は3つ以上を保有。配送・返品プログラムの利用率はマレーシア47%、タイ42%で、事業者側の71%はすでにサブスク型の配送・返品サービスを提供しています。決済ではカードとデジタルウォレットが引き続き主流である一方、後払い(BNPL)や生体認証決済の利用も伸びていると同調査は伝えています(Retail Asia)。
セラー視点: 買い手の4割がAI経由で商品にたどり着き始めているなら、AIが読み取る先——つまり商品タイトル・属性・説明文・レビューの正確さと充実度——が発見可能性を左右する変数になっていきます。半数が「AIの答えを疑っている」という数字は、レビューと商品情報の一次情報としての信頼性がむしろ重くなることを示唆します。誇張表現で盛るより、型番・成分・サイズ・正規品証明を機械可読に正しく書くことが、この変化への実務的な備えです。
ライブ×クリエイター販売の「外部化」、LazadaもMeta連携——入り口は現地ライバー
先週号で取り上げたShopeeとMetaの提携拡大に続き、LazadaマレーシアもMeta連携を含むソーシャル販売強化を打ち出しました。7月23日発表のリリースによると、Lazadaは招待制イベント「Glam Meets & Glitz(GLAM)」に300人超のKOL・クリエイター・ブランド関係者を集め、70のブランド・セラーの商品知識をクリエイターに直接学ばせる場を設けました。あわせてMetaのFacebookアフィリエイトプログラムを通じ、マレーシアの対象クリエイターがLazadaのアフィリエイトアカウントをFacebookに接続してリールやフィード投稿に商品をタグ付けできる仕組みを整え、Instagram連携も後続予定としています(Malay Mail)。TikTok Shopの垂直統合に対し、ShopeeもLazadaも「外部SNSと組んで同じ体験を再現する」水平戦略で並んだ格好です(先週号の整理はこちら)。
このイベントで見逃せないのが、LazadaがLazMallの「越境品揃えの拡充」を明示的に打ち出した点です。中国のUbrasや韓国のCleardeaなど中国・韓国ブランドをクリエイターに直接紹介する枠が設けられており、マレーシアの買い手にまだ馴染みのないブランドを、クリエイター経由で認知させる導線をプラットフォーム側が用意し始めています(Malay Mail)。中国・韓国勢が「公式ブランド×クリエイター教育」のルートで攻めてくる競争環境の変化であると同時に、無名の海外ブランドでもこの導線に乗れば認知を作れることを示す動きでもあります。
日本人セラーがこの流れに乗る入り口として、Shopee Japanが7月25日に公開したShopee Liveの解説が実務的です。現地ライバー(配信者)に配信を依頼する形なら、言語と文化を理解した相手が商品の魅力を自然に伝えられること、実際の使用感をリアルタイムで見せることで広告より信頼されやすいこと、配信限定クーポンと組み合わせて購入までつなげやすいことがメリットとして整理されています。報酬はライバーや所属事務所、依頼内容によって異なり、配信時間・内容・プロモーション内容を踏まえて事前に両者で取り決める形です。同コラムは、依頼前に商品の特徴や訴求ポイントを共有して配信内容を十分に打ち合わせること、そして商品との相性の良いライバーを選ぶことを成功の条件として挙げています(Shopee Japan)。ライブ配信は自前でやるには言語の壁が大きい領域なので、「現地ライバーへの依頼」という選択肢があること自体を知っておく価値があります。前段のDHL調査で半数が「AIレコメンドの正確性を疑問視」していたことを思い出すと、実際の使用感を人が見せるライブ・クリエイター経由の販売に両モールが投資を続けている理由も読み取りやすくなります。
セールカレンダー: 8.8前夜——シンガポールはナショナルデー商戦モードに
来週8月8日は今年後半戦最初のダブルデー、8.8セールです。シンガポールではShopeeアプリのストア表記がすでに「Shopee 8.8 National Day Sale」に切り替わっており、例年通りナショナルデー(8月9日)商戦と一体で走る構えが確認できます(Google Play)。ただし各国の開催期間・バウチャー設計の個別公式発表はまだ確認できていないため、常設のセールカレンダーでは引き続き「例年」扱いとし、確認でき次第「確定」へ更新します。8.8は中規模の山で、本番は9.9からのQ4商戦——在庫と価格の仕込みはそちらを本命に置くのが例年の型です。
短信
- Shopeeマレーシア、国内セラー向け成長支援を拡充。 7月23日、4月開始の支援プログラム「Shopee Lindung Niaga」の拡充を発表しました。新規ローカルセラーのプラットフォーム利用料60日間免除、手数料発生前の注文上限を100件から200件へ引き上げ(初出品から120日間、上限到達時はその時点まで)、ミルク・パン・卵など生活必需品60超カテゴリの販売手数料を0.5〜9.0%引き下げ(引き下げ対象は計120超カテゴリに)、新規のFulfilled by Shopee(FBS)利用セラーの手数料免除、広告クレジット50%追加付与が柱です。同社はShopee広告を使い始めたセラーでインプレッション18%増・クリック10%増・GMV25%増という内部データも示しています(Malay Mail)。対象はマレーシア国内セラーで、インドネシアの手数料半減(先週の整理)に続き「国内セラーのコスト優遇」が域内で広がる流れとして押さえておきたい動きです。日本発の越境セラーは対象外ですが、生活必需品カテゴリでは国内セラーとのコスト差が広がることになります
- Shein、香港IPO前に四半期赤字。 2026年第1四半期は9,900万ドルの純損失(前年同期は3億9,500万ドルの黒字)、米国売上は前年比14.3%減の20億4,000万ドル、営業利益率は3.9%から2.9%へ低下。2025年通年では売上418億5,000万ドル(8%増)に対し純利益は20億6,000万ドル(38.7%減)と増収減益でした。米国の小口免税廃止(2025年5月、中国産品に10〜87.5%の関税)とEUの低額輸入手数料(7月から1梱包3ユーロ)が直撃した形で、中国証券監督管理委員会からは7月10日に香港上場の認可を取得済み、想定評価額は400〜500億ドルと報じられています(Inside Retail Asia)。「安い小口を大量に飛ばす」モデルへの逆風が決算数字に表れた、先週号の続報です
- AliExpressにEUが5億5,000万ユーロ(6億2,700万ドル)の制裁金。 欧州委員会は7月20日、違法・危険・模倣品の流通リスクの評価と軽減が不十分だったとしてデジタルサービス法(DSA)違反を認定しました(欧州委員会)。モデレーション体制の人員不足や効果測定の不備が指摘され、検出後も違法商品が数週間掲載され続けた点が問題視されています(Retail Asia)。模倣品対策がプラットフォーム経営の直接コストになる流れは、正規品を扱うセラーには中期的に追い風側の変化です
- ジェトロ、台湾発クルーズ客に宮崎県産品の受容性調査。 7月7日、台湾・基隆発のクルーズ船「MSCベリッシマ」の乗客を対象に、宮崎県日南市の油津港で県内8社の加工食品・飲料・調味料の試食調査を実施しました。「このパッケージの色はお酒を連想させる」(ノンアルコール飲料)といった現地目線の指摘を集め、結果は8月に分析したうえで、Shopeeでの商品ページ改良と2027年2月末までのプロモーションにつなげる計画です(ジェトロ)。「訪日・訪日周辺の接点で知ってもらい、越境ECで買い続けてもらう」という先週号で整理した導線の、地方産品版の実例です
先週号はこちら。木曜のトレンドウォッチでは、今週も需要側のバズ商品を深掘りします。
