9.9が終わりました。今週の東南アジアで動いたのは個別のバズ商品ではなく、売り場の時間の使い方です。ベトナムでは9.9の丸1日前からライブ配信が立ち上がり、1本62時間というセッションまで出ました。同じ週にMomentum Worksが「コンテンツ経由のGMVは2026年通年で779億ドル、上半期時点でプラットフォームEC全体の37%」という推計を出しています。商品の話ではなく、商品を出す枠の話が今週のトレンドです。
ベトナムの9.9は、前日の朝10時に始まっていた
Tuổi Trẻが9月9日に出した現場ルポによれば、9.9のライブ配信は9月8日午前10時、つまり本番まで丸1日近くある時点から一斉に立ち上がりました。KOLのDiệp Lê、Sam、Lucie Nguyễn・Tuấn Dương夫妻、俳優のLê Dương Bảo Lâm、歌手のSĩ Thanh、MCのLiêu Hà Trinhらが別々の配信に登場し、1本62時間続いたセッションもあったと記事は書いています。時間帯ごとに商品を入れ替え、ディールを出し直す組み立てです(Tuổi Trẻ 9月9日)。
扱われたのは化粧品・ファッション・家庭用品・食品。値引きに加えてバウチャー、送料無料コード、配信枠限定価格が重ねられます。記事はAHCのアイクリームが表示価格767,000ドンに対し配信中565,000ドン(バウチャー適用前)で出ていた例を挙げています。TikTok Shop側でもKOL/KOC・売り手が同様に時間帯ごとにディールを差し替えており、記事は「9.9のセール狩りはもう0時だけに集中してはいない」と結論づけています。
対照的だったのがオフラインで、ホーチミン市のAEON Mall Tân Phú CeladonやVincom Center Đồng Khởiでは各ブランドが独自日程の値引きを続けており、9.9に同期した動きは見られなかった、とあります(同)。
セラー視点: 押さえたいのは「ピークが前倒しになった」ではなく、セール当日という単位そのものが溶けていることです。記事に出てくる買い物客2人の行動がそれを示していて、カートに入れておいて大型セールで価格を見直す、複数ショップを比べてから決める、というものでした。配信枠を持たないショップは、この比較検討の一材料として通り過ぎられやすい位置に置かれます。市場側の数字も同じ方向で、YouNet ECIによれば2026年上半期のShopee・TikTok Shop・Lazada・Tikiの取引総額は264兆8,000億ドン(前年同期比19%増)、シェアはShopee 54.5%、TikTok Shop 43.4%、最大カテゴリはファッション・アクセサリーで取引額の28.5%を占めます(同)。日本から出しているカテゴリが上位と重なるなら、9.9当日に値付けを合わせるより、その前後1週間をどう埋めるかの話になります。
Momentum Works: コンテンツ経由GMVは2026年通年で779億ドル、上半期でEC全体の37%
9月8日、Momentum Worksが新レポート『Live Commerce in Southeast Asia 2026』を出しました。同社の推計では、Shopee・TikTok Shop・Lazadaを合わせたコンテンツコマースのGMVは2025年に497億ドル(前年比98%増)、2026年上半期に338億ドルが動き、通年では779億ドル・前年比57%増の見込み。プラットフォームEC全体のGMVに占める比率は上半期で**37%**で、2024年の20%から上がっています(The Low Down、TNGlobal、BusinessMirror)。
レポートの主張は「ライブをもっとやれ」ではありません。むしろライブに寄せすぎで、最初の需要を作っているショート動画・アフィリエイト・レビューへの投資が足りない、という指摘です。「1回の購入が単一チャネルだけを通ることはめったにない」として、フォーマットをポートフォリオとして扱うべきだとしています。中国モデルの移植についても「中国は地図であって、東南アジアの設計図ではない」と釘を刺しています(同)。もう一点、ライブ由来の売上と、ライブがなくても商品ページやショート動画で成立していた需要を切り分けよ(incrementality)という論点も挙がっています。
セラー視点: これは有料レポート(US$59.95)の要約であり、数字はすべてMomentum Worksの推計で第三者が追試できるものではありません。GMVの定義もプラットフォーム横断の推計です。そのうえで実務的に効くのは37%という比率のほうで、売り場の3分の1超がコンテンツ経由の導線に移ったという水準感です。商品ページの作り込みだけで棚に載っていた頃の前提は、少なくとも数字を確認できたベトナムでは通用しにくくなっています(37%は東南アジア全体の推計で、国別の内訳は公表されていません)。
AIライブは一部事例で「人の2〜2.5割のコストで、時間あたりGMVは約8割」
同じレポートで具体的な数字が出ているのがAI配信です。Momentum Worksが調べた一部の事例("In selected cases we studied")では、AIによるライブ運用は**人的運用の20〜25%のコストで、時間あたりGMVは人間の配信の約80%**に達したとされています(同)。一般法則として提示されている数字ではない点に注意が要ります。
実装側の事例も出ています。AnyMind Groupの2026年4月22日のリリースによれば、Samsungが同社のAIライブコマース基盤「AnyLive」を8市場(オーストラリア、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)で採用し、月4,450時間のライブ配信を追加。10体のAIアバター配信を8市場で2週間のリードタイムで同時展開したとしています。東南アジアではShopee・TikTok・自社サイトが配信先です(AnyMind Group)。同社シンガポールのToh Yi Hui氏は8月のインタビューで、ある1店舗ではAI配信が月間GMVの15〜20%を占めるとし、また別途、ECの管理基盤AnyXとAnyAI Agentを接続したワークフロー刷新によって、プロモ設定や手動レポートの工数を80%削減したとしています(いずれも同社の自己申告値で、他に裏を取れる出典は見つかりませんでした。数字の集計単位は前者が1店舗、後者はシンガポールのチーム全体の業務で、別のものです。ContentGrip 8月24日)。
セラー視点: これらの数字はいずれもMomentum WorksとAnyMindという当事者側の集計で、母集団も公開されていません。日本の中小セラーがいますぐAIアバターを導入する話でもありません。効いてくるのは供給側で、24時間埋められる配信主体が増えれば、ライブ枠の希少性そのものが下がる可能性があります。Momentum Works自身、競争の激化がいまブランドが享受している採算に圧力をかけるだろう("Rising competition will also put pressure on the economics brands enjoy today")と書いています(The Low Down)。今のライブのROIが良く見えているとしたら、それが何年続く前提なのかは分けて考える話です。
中秋節は9月25日。伸びているのは月餅の「隣」
ベトナムの中秋節(Trung thu)は2026年9月25日で、前年より早く、販売期間が圧縮されました(Báo Văn Hóa 8月12日)。Shopeeのデータとして報じられているのは、8月だけで中秋関連の検索が約100万件、中秋関連商品の注文が前年同期比約50%増、月餅に限れば祭りの前2か月で前年の2倍、という数字です。検索の多い順は月餅、ランタン、ギフトボックス、製菓材料でした(Dân trí 8月27日、Tuoi Tre News 8月28日)。
売り手側の動きも前節とつながっています。老舗のLâm ThủyはブランドディレクターのNgô Thị Thúy Linh氏の説明として、8.8セール期にライブを強化した後、Shopee店舗の訪問が前週比80%以上増え、生産・梱包・カスタマーサービスの人員を3倍にし、9.9でさらにライブを強化する、としています。Mondelez Kinh ĐôはEC担当のDương Uy Trọng Phúc氏の説明で、Mini Lava、Bánh Tuyết、4個入りのMã Đáo Đoàn Viên、2個入りのTrăng Slayといった若年層向けSKUを投入しています(同)。
セラー視点: 月餅そのものは日本からの越境では扱いにくい商材です。見るべきは検索の2〜4位、つまりランタン・ギフトボックス・製菓材料という「月餅の隣」です。このうちランタンとギフトボックスは、食品ほど期限に縛られない在庫として持てます(製菓材料は消費期限のある食品なので同じ扱いにはなりません)。原材料コストも上がっており、ホーチミン市のあるメーカーは原材料が約40%、人件費が30〜40%上昇し価格改定は約15%と説明しています(市場全体では3〜20%、典型は5〜10%の値上げ。KIDOは3〜5%、Orionは一部で2〜3%)(Báo Văn Hóa)。今年の9月25日に向けた新規の仕込みは、日程的にはもう厳しい段階です。検索が動き出したのが8月であることを踏まえると、来年のカレンダーに引く線は中秋の2か月前=7月下旬あたりになります。
短信: 次に見ておきたい動き
- ベトナムのTikTok Shopは伸び自体が市場平均の2.5倍: TikTok Shopが7月28日のイベントで自社発表した数字では、2025年のGMVが2024年比66%増、売上が発生した出店者数が42%増、月間アクティブユーザーが36%増。商工省ベースの市場成長率25.5%に対して2.5倍以上です。カテゴリ別の伸び(これも自社発表)は住まい・生活が94%、日用品と携帯電話・電子機器がそれぞれ71%。シェアはYouNet ECIの集計として2024年の26.9%から2025年に39.6%へ上がり、Shopee(57.5%)に次ぐ2位とされています(VnExpress 7月28日)。上の9.9ルポの43.4%も同じYouNet ECIですが、あちらは2026年上半期、こちらは2025年通年で期間が違うため単純比較はしません。
- Anime Festival Asia Singaporeは11月27〜29日: 会場はSuntec Singapore Convention & Exhibition Centre。公式サイトは2026年がシンガポール・日本の外交関係60周年にあたることを掲げています(Anime Festival Asia)。11.11の後、12月商戦の手前という位置で、キャラクター系を扱っているなら在庫と配信計画の両方に絡む日程です。
今週の出来事の網羅は週刊ダイジェスト2026年9月7日号にまとめています。
