9.9まで2日です。ただ今週いちばん読み応えがあったのは、セールの告知ではなく9月3日にジェトロが公開した102ページの調査報告でした。インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、インド、バングラデシュの8カ国について、83の市場カテゴリを成長性と重要度で評価し、国ごとに「重点市場」を1つ選ぶという構成です(ジェトロ)。日系企業向けに書かれた資料なので、越境ECの出品者にとっては珍しく前提を共有できる数字が並びます。今週はここを中心に、商品検索の入口の話と9.9の会期を足して整理します。
ベトナムの重点市場は、商材ではなく「EC」そのものだった
まず選定の結果です。インドネシアは調理済み食品、マレーシアはスキンケア、フィリピンは簡易型レストラン、シンガポールはビデオゲーム、タイはペットフード、インドは家庭用空調、バングラデシュは外食オンライン注文。そしてベトナムだけ、商材ではなく「EC」という売り場そのものが重点市場に選ばれています(PDF)。
理由の説明が実務的です。ベトナムでは絞り込みの過程で「メイクアップ・コスメ」「スキンケア」「EC」の3つが残りましたが、美容の2つは韓国系・欧米系・ローカルとの競争が既に激しく、単一カテゴリでの参入は広告投資・インフルエンサー活用・価格対応の負担が大きいと整理されています。対してECを軸に取れば、美容を取り込みながら日用品・ベビー用品・生活雑貨・食品へ横展開できる。ここでの「EC参入」はマーケットプレイスを新設することではなく、既存プラットフォーム上の公式ストア運営、越境EC、カテゴリー特化型EC、D2C、EC運営支援、フルフィルメント、物流、正規品保証、ライブコマース運営などを指す、と明記されています。
市場の形も数字で出ています。ベトナムの小売EC市場は2025年に約243億米ドル、2030年に約499億米ドル(年平均約15%)の見通し。小売全体に占めるEC比率は2024年に約18%、2025年に約19%、2030年に約28%とされます。カテゴリ別では2025年時点で家電・電子機器が約36億米ドル、ファッションが約35億米ドルと大きい一方、伸び率で目を引くのはホーム関連商品(2025年約18億→2030年約65億米ドル、年平均約29%)とヘルス&ビューティー(約12億→約28億米ドル、約18%)です。ファッションの中身も一様ではなく、衣料そのものは年平均約7%にとどまるのに対し、パーソナルアクセサリーは約11%、アイウェアは約19%。1人当たりの小売EC支出は2025年約288米ドル、2030年約478米ドルの見通しで、価格帯は依然10万〜20万ドン(約610〜1,220円。ジェトロ換算、1ドン=約0.0061円)が厚いとされています。この価格帯の話は8月6日のトレンドウォッチで扱った上の帯へのシフトと合わせて読むと動きが見えます。
シェアの数字は、読む時に分母を確認する必要があります。本報告の小売ECブランド別シェア(2025年)はShopee Marketplaceが約40%、TikTok Shop Marketplaceが約31%、Lazada Marketplaceが約2%で、上位2社で約71%。一方、YouNet ECIが8月10日に出した集計はShopee・TikTok Shop・Lazada・Tikiの4サイトだけを分母に取り、2026年上半期のGMVは264兆8,000億ドン(前年同期比19%増)、Shopee 54.5%・TikTok Shop 43.4%としています(YouNet ECI、VIETJO)。前者は4サイト以外のオンライン小売も含む分母、後者は4サイト限定の分母で、同じ「シェア」でも別の数字です。なおYouNet ECIのEC消費者信頼感指数(ECCI)は上半期122ポイントで、2026年第1四半期の127から下がっています。
カテゴリによる偏りも大きく、アパレル・フットウェアECだけを見ると2025年はTikTok Shopが約61%、Shopeeが約34%で、上位2社が約95%を占めます。服は動画とライブで発見される売り場に寄っている、という形がここにも出ています。
マレーシアのスキンケアは「9割オフライン」、伸びているのは使う点数
マレーシアの重点市場はスキンケアです。市場規模は2025年に約12.8億米ドル、2030年に約20.0億米ドル(年平均約9%)。報告はこれを「準成熟・高付加価値化型」と呼び、伸びの主因は利用者数の増加ではなく、顔用ケアの多ステップ化と悩み別商品の追加、つまり同じ人が目的別に使い分ける点数の増加にあると整理しています。
出品者として押さえておきたいのは流通の内訳です。2025年時点でもスキンケア販売の約9割はオフラインで、EC比率は1割強にとどまります。肌に直接使う商品なので、消費者は正規品か・肌に合うか・どの順で使うかを確かめたいという心理が強く、店頭の説明やテスターが効く。一方で認知形成と比較検討はSNS・公式EC・ライブコマースへ移っており、「オンラインで発見し、店頭で確かめ、公式ECやアプリでリピートする」導線になる、という説明です。先週触れたセフォラ×オリーブヤングのシンガポール・マレーシア・タイ同時開始は、この「店頭で確かめる」側の棚が動いた話として重なります。
競争環境は分散しています。2025年のブランド別シェアはSK-IIが約8%、Nu Skin(米国)が約6%、資生堂が約4%で、上位3ブランド合計でも約18%、上位5でも約24%。首位でも1割に届きません。また、セラミド、ナイアシンアミド、ヒアルロン酸、ビタミンC、レチノール、サリチル酸、CICA、ペプチドといった成分名そのものが購買判断に組み込まれているとされ、暑湿環境ゆえに重いクリームより軽いジェルクリームやべたつきにくいセラムが受け入れられやすい、とも書かれています。
タイのペットフードは猫とウェットに寄り、日本ブランドも名前が出ている
タイの重点市場はペットフードで、2025年に約19億米ドル、2030年に概ね35億米ドル規模の見通し。年平均成長率は犬向けが約11%に対し猫向けが約15%とされ、都市部のコンドミニアム居住・単身世帯の増加が背景に挙げられています。流通はEC比率が約17%、ペット専門店等が約31%。飼い主の約58%がペットを家族の一員と見なしているという数字も引かれています(出典はPet Fair South East Asiaの資料)。
ブランド別シェア(2025年)は猫向けがWhiskas約17%、Me-O約11%、NekkoとRoyal Caninが各約8%、Purina ONE約6%で、上位5合計でも約49%。犬向けはPedigree約12%、SmartHeart約9%、Royal Canin約6%、JerHigh約5%、A Pro約3%で上位5合計約36%と、犬向けはさらに分散しています。この上位5の外側に、専門・ニッチブランドという類型が立てられていて、猫向けのPramy約4%、Kaniva約4%と並んで、いなばペットフードのCiaoが約3%まで拡大したブランドとして挙げられています。ニッチ・オンライン起点のブランドが、ウェット・ピューレ・トッパー・機能性トリートといった少量高単価の領域で伸びやすい、という文脈での言及です。
ただし前提として、タイは2024年に犬猫向けペットフードを27億米ドル輸出する製造・輸出拠点でもあり、輸入品は国内市場の約9%にすぎません。現地生産品も品質・価格・供給安定性で競争力を持つため、単純な輸入プレミアム戦略だけでは優位に立ちにくい、というのが報告の見立てです。
商品を見つける入口が、検索からAIへ寄り始めた
同じ週に、商品発見の入口についての調査が2本出ています。Retail Asiaが9月3日と4日に報じたものです。
1本目はEuromonitor Internationalによるもので、2026年にAIプラットフォーム発の全世界の商品検索のうち、美容・パーソナルケアがほぼ半分を占めたとしています。同社は2026年の世界の美容・パーソナルケア販売を6,698億米ドル(現在価格ベースで6.1%増)と見込み、中国では2026年第2四半期にDouyinがTmallを抜いて美容ECの首位(シェア42%)になったとも報告。「認知から検討、試用へと続く従来の購買ファネルが、アルゴリズムが決める一瞬に潰れつつある」という表現が使われています(Retail Asia)。
2本目はMintelの中国調査です。2026年3月に18歳以上のインターネット利用者1,799人(AIを知っている層)に聞いたところ、商品情報の入手にAIツールを使う人が51%で、従来型の検索エンジン(40%)を11ポイント上回りました。ただし最も使われているのは依然SNSで55%です。重要なのは同社の但し書きで、「検索で見られる行動は、多くのテック企業が言うのとは違い、エージェンティックコマースにそのまま転移しない」——AIに調べさせることと、AIに買わせることの間には信頼という壁がある、と釘を刺しています(Retail Asia)。
この2本は中国と全世界のデータで、東南アジアの数字ではありません。その東南アジア側について、ジェトロの報告は5つの地域横断トレンドの1つに「AI起点の発見・比較・購買支援の浸透」を挙げ、消費者が商品名ではなく「高温多湿の気候で使えるレチノール」「結婚式に着ていく服」のような生活文脈で尋ねるようになっている、と書いています。そのうえで企業側には「検索される」だけでなく「AIに正しく理解され、引用され、推奨される」ための情報設計——商品説明、成分、機能、容量、使用方法、対象、レビュー、FAQを現地語で整えること——が求められる、としています。商品ページの現地語の作り込みは後回しになりがちですが、そこが読み取られる対象になっている、という話です。
セールカレンダー: Lazada 9.9の会期が3か国で出そろった
先週は9.9の2026年の会期を一次ソースで確認できたのがShopeeの2か国(インドネシア・マレーシア)だけでした(9月1日号)。今週はLazada側が出そろっています。
- マレーシア: 9月6日0時〜9月11日。最大の値引きとキャンペーンバウチャーは9月8日20時から。RM19ディール、最大RM1,000のバウチャー、Stack & Save最大50%オフ(Pokde.Net)
- フィリピン: 9月8日20時〜9月11日。LazFlash最大90%オフ、送料無料、最大₱3,000のバウチャー。Lazadaフィリピンのカルロス・バレラCEOは「ホリデーシーズンのあり方が変わり、フィリピン人の買い方も変わっている。消費者はより早く動き始め、何を買うかをより慎重に見て、1ペソごとに多くを期待している」とコメントしています(LionhearTV、Gadgets Magazine)
- タイ: 9月8日20時〜9月11日。最大10,000バーツのバウチャーとLazFlash最大90%オフ。有名ブランドのディールは最初の6時間(20時〜翌2時)に置かれています(TelecomLover記事の英語要約も6時間枠の対象を「brand deals」としています)(Positioningmag、TelecomLover)
3か国とも9月8日20時が実質のスタートです。9.9当日の0時ではなく、前日の夜に山が来る形になっています。
ただし確度は前号と同じではありません。3か国とも会期の出所はLazada各国の告知を伝えた現地媒体で、Lazada Groupの公式プレスリリース一覧に2026年の9.9告知は掲載されていません(本稿執筆時点の最新は4月2日)。Lazada公式ドメインのSponsored Solutions側の案内(8月14日)にも国別の会期はありません。先週一次ソースで確認できたShopeeの2か国とは、裏の取れ方が一段違うものとして読んでください。常設のセールカレンダーも本日付で更新しています。
短信
- 中国系Oh!Someがベトナムで店舗を縮小、撤退観測も: 低価格ライフスタイル雑貨のOh!Someが、2025年4月のベトナム初出店から1年あまりで店舗を大幅に縮小し、市場からの完全撤退の可能性も報じられています。2025年6月にはホーチミンのVincom Center Dong Khoiに2,000平方メートルの旗艦店を開いていました。損失の拡大に加え、一等地の高い賃料、運営・物流コスト、人件費が理由として挙げられています。同社はシンガポールの全店舗と香港の唯一の店舗も閉じており、そのことが他の東南アジア市場でも縮小があり得るという観測につながっている、と同記事は書いています(Inside Retail Asia)
- インドネシアのハラール義務化が10月に迫る: Euromonitorも上記のレポートの中で、インドネシアが10月17日までに全消費財のハラール認証を求める点に触れています。ただし対象範囲の書き方は出典によって差があり、同じ週のジェトロの報告は食品・飲料について「輸入食品・飲料および中小零細事業者向けには2026年10月17日までの猶予が示されている」と段階導入として説明しています。日程の書き方が官庁資料の中でも揺れている件を含め、9月3日のトレンドウォッチで整理済みです
