TikTok発の世界的な抹茶ブームは、一過性の流行を超えて構造的な需要になりつつあります。輸出の数字、供給側の事情、そして東南アジアの現場で何が起きているかを整理します。
輸出は10年で7倍、直近1年で2倍
日本茶の輸出額は2015年の約101億円から約10年で7倍規模に成長し、2024年の364億円から2025年には約720億円へと前年比およそ2倍に跳ね上がりました(RX Japan)。輸出額の84%を抹茶を含む粉末茶が占め、その粉末茶の輸出額の約8割が抹茶です。高級抹茶の単価はリーフ茶の2.2倍程度とされ、輸出の成長は「高いものがより多く売れる」プレミアム化を伴っています。
需要の熱は小売価格にも表れています。メーカーへの取材では需要は5年で約8倍。2023年に30〜40ドルだった高級抹茶(30g)が、いまは50〜80ドルで売られる例も報じられています(フロントロウ)。ジェトロも2025年に抹茶価格が3〜4倍に上昇したと記しており(ジェトロ)、水準の異なる複数の報告が同じ方向を指しています。
世界市場の規模感——25億ドルから40億ドルへ
小売市場の全体像も押さえておきます。世界の抹茶市場は**2024年時点で約25億ドル(約3,900億円)**とされ、2028年には35〜40億ドル規模への成長が見込まれています(年平均6〜8%成長)(抹茶タイムズ)。地域ごとの姿はかなり違い、北米は需要の8割がカフェ経由、欧州はオーガニック認証品が輸出の77%で単価が最も高く、アジア・中東はRTD飲料とデザート素材が年15%成長という「加工・アレンジ用途で伸びる市場」です。
同分析には日本の輸出側の内訳もあり、てん茶(抹茶原料)の生産量の4割がすでに輸出向けに回っているとされます。2023年292億円→2024年364億円→2025年約720億円という輸出額の時系列は複数ソースで整合しており、この成長が統計のブレではないことが確認できます。
需要をつくったのはSNS——「映える緑」と第3のカフェイン
この需要の起点はSNSです。TikTokの日常ドリンク動画やInstagramのウェルネス系インフルエンサーが抹茶を「トレンドの飲み物」に変えたと報じられており(フロントロウ)、市場分析でも鮮やかな緑色が視覚的なフックとして機能していること、カフェでは**コーヒーに次ぐ「第3のカフェイン飲料」**のポジションを取りつつあることが指摘されています(抹茶タイムズ)。見た目で拡散し、健康文脈で定着する——SNS起点の商材のなかでも息の長い型です。産業側の熱も高く、6月に東京ビッグサイトで開かれた"日本の食品"輸出EXPOでは抹茶ビジネスが特集の扱いでした(RX Japan)。
品薄は「すぐには直らない」構造
供給側の事情を並べると、この品薄が短期では解消しないことが分かります(フロントロウ)。
- 原料のてん茶は日よけ栽培など手間がかかり、新たに植えても本格収穫まで約5年
- 茶農家は2000年の約5.4万戸から約2万戸まで減少
- 2025年は京都・愛知など主産地の記録的な猛暑で減収
需要が増えても供給は5年単位でしか増やせず、作り手自体が減っている。つまり需要が落ち着くか増産が実るまで、高値と品薄は続く前提で考えるべき状況です。
タイの現場: ブームは終わらず「日常」になった
ASEANの現在地を最もよく示すのがタイです。ジェトロのレポートに登場するバンコクの日本茶専門店主は、「2025年に爆発的な抹茶ブームを迎えた後も、日常消費として定着している」と証言しています(ジェトロ)。高架鉄道の駅下のドリンクスタンドからショッピングモールの茶カフェまで販売の場が広がり、客足の増加を受けて2026年2月にティールームを拡張した店もあるといいます。抹茶はもはや「話題の輸入品」ではなく、コーヒーと並ぶ日常の選択肢として競争するフェーズに入っています。
数字でも裏付けがあります。ASEAN向け日本茶輸出は数量ベースで2019年からEUを上回り続けており、2025年は単価も前年比38%上昇しました。ブームの震源地である欧米より先に、ASEANは「量が出る市場」になっていたわけです。
次の波は「抹茶以外」——ほうじ茶への広がり
同レポートで注目すべきはこの一文です。「最近では、ほうじ茶など焙煎茶への関心も高まり、抹茶にとどまらず幅広い茶種への需要が広がっている」。抹茶を入り口に、日本茶というカテゴリ全体へ需要が染み出しています。
国ごとの飲まれ方の違いも、そのまま商品選定のヒントになります。
- タイ: 粉末商品とRTD(ペットボトル等)の存在感が強く、ミルクや甘味を加えるアレンジ飲用が主流
- ベトナム: 煎茶の認知が最も高く、日常の食事とともに飲む習慣
- シンガポール: 抹茶と煎茶が拮抗し、品質・味への関心が高い
同じ「日本茶需要」でも、タイにはラテ向けの粉末やアレンジ素材、ベトナムには食事に合わせる煎茶、シンガポールには品質の説明が立つ商品——と、当て方が変わります。ちなみに輸出量で2位につける台湾は9割がリーフ茶で、粉末中心の欧米・ASEANとは需要の質が異なります(抹茶タイムズ)。台湾向けに考えるなら、抹茶パウダーより茶葉そのものが本線です。
セラーはこの需要をどう捉えるか
抹茶そのものは、いまから参入するには調達リスクが大きい商材です。 仕入れ価格の高騰と品薄が構造的に続くため、安定供給と利幅の両立が難しい。一方で需要の裾野は広がる側にあります。
- 周辺カテゴリ: 茶筅・茶碗などの茶器、ラテ用品、製菓用抹茶。ジェトロの調査でも抹茶関連器具の注文が伸びていることが指摘されています
- 抹茶以外の茶種: ほうじ茶・煎茶は、抹茶ほど原料が逼迫しておらず、需要が伸び始めた側
- 売り方: ジェトロは輸出側への提言として、トレーサビリティの整備、文化・品質の文脈の発信、「抹茶」一本足ではない茶種別のブランディングを挙げています。商品ページでの産地・製法の説明がそのまま差別化になる市場です
国別の飲まれ方に合わせて商材を当て、検索ボリュームで需要を確認しながら広げていくのが現実的な入り方です。
今週の東南アジア全体の動きは週刊ダイジェスト2026年7月14日号にまとめています。
