創刊号となる今週は、「東南アジアでいま何が売れているのか」を軸にお届けします。世界的な抹茶バブルのASEANでの現在地、Shopee公式データが示す日本商品の国別売れ筋、急拡大するTikTok Shopの規模感、タイ・ベトナム・インドネシアの市場環境、そして終わったばかりの7.7セールと年後半のカレンダー。末尾に販促・手数料まわりの短信をまとめています。
今週の要点
- 日本茶輸出は2025年に約720億円(前年比約2倍)。ASEANでは抹茶が「日常」化し、日本茶全般に需要が拡散
- Shopee公式の売れ筋はIHADA(VN)・激落ちくん(MY)・カクノ万年筆(PH)・ベイブレードX(TW)——日本の日用品がそのまま需要に
- TikTok ShopのSEA GMVは3年で10倍の456億ドル。ベトナムではシェア4割に到達
- インドネシアは国産優遇の制度変更が3連発。越境販売には逆風
- 次のメガセールは8.8。年末商戦の起点9.9に間に合わせるなら仕込みは8月中旬まで
抹茶バブルの現在地——ASEANでは「ブーム」から「日常」へ
世界的な抹茶需要の過熱が続いています。日本茶の輸出額は2015年の約101億円から約10年で7倍規模に成長し、2024年の364億円から2025年には約720億円(前年比約2倍)へと拡大が加速しました(RX Japan)。メーカーへの取材では需要は5年で約8倍とされ、2023年に30〜40ドルだった高級抹茶(30g)がいまは50〜80ドルで売られる例も報じられています(フロントロウ)。背景には、原料のてん茶が収穫まで約5年かかること、茶農家が2000年の約5.4万戸から約2万戸まで減っていること、主産地の猛暑による減収があり、品薄はすぐには解消しない構造です。
東南アジアに目を向けると、ジェトロの5月のレポートは、ASEAN向け日本茶輸出が数量ベースで2019年からEUを上回り続けていること、2025年は単価も前年比38%上昇したことを伝えています(ジェトロ)。国ごとの飲まれ方の違いも興味深いところで、タイは粉末・RTD(ペットボトル等)中心にミルクや甘味を加えるアレンジ派、ベトナムは煎茶の認知が最も高く食事と一緒に飲む習慣、シンガポールは抹茶・煎茶が拮抗し品質重視、と分かれています。
リサーチの観点では、抹茶そのものは仕入れ価格の高騰と品薄がリスクになる一方、「抹茶をきっかけに日本茶全般へ需要が広がっている」のがこのレポートの要点です。茶器・ラテ用品などの周辺カテゴリや、抹茶以外の日本茶も含めて検索需要を確認する価値がありそうです。数字の詳細と国別の飲まれ方は単独記事「抹茶バブルはどこまで来たか」にまとめました。
日本商品はいま何が売れているか——Shopee公式の最新月次データ
Shopee Japanが公式コラムで公開している月次の「人気急上昇商品」(最新は6月号)から、国別の顔ぶれを拾います(Shopee Japan)。
- ベトナム: 資生堂「IHADA フェイスプロテクトパウダー」。UVカットと低刺激を両立したスキンケアが支持
- マレーシア: レック「激落ちくん」の高密度ブラシが日用品でトップ。スポーツ&アウトドアも好調でランニングウォッチが上位
- フィリピン: パイロットの万年筆「カクノ」シリーズ。初心者向け設計が文具好きに刺さる
- 台湾: タカラトミー「ベイブレードX」シリーズがホビーで定番の強さ
少し遡ると顔ぶれの入れ替わりも見えてきます。3月号ではマレーシアでNMNサプリなどの健康食品が売上1位、台湾ではパナソニックの美顔器が急伸、ブラジルはアニメ・ゲーム関連のホビーが最上位でした(Shopee Japan 3月号)。化粧品・健康食品・掃除用品・文具・ホビーという「日本の日用品と趣味のもの」がそのまま海外で需要を持っている構図は一貫しつつ、カテゴリ内の主役は数カ月で入れ替わります。月次の定点観測をおすすめします。
データで見るTikTok Shop——「世界のTikTok Shop」の7割は東南アジア
売れ筋を追う上で、もはや無視できないのがTikTok Shopの規模です。Digital in Asiaの分析によると、TikTok Shopの東南アジアGMV(流通総額)は2022年の44億ドルから2025年には456億ドルへと3年で約10倍に拡大し、これは世界のTikTok Shop GMVの71%にあたります(Digital in Asia)。2025年の国別内訳はインドネシア131億ドル(前年比+111%)、タイ100〜120億ドル(+101%)、ベトナム70〜80億ドル(+150%)、マレーシア50億ドル(+132%)、フィリピン40〜50億ドル(+99%)と、全市場が前年比で倍増しています。
特徴的なのは買われ方で、同分析では平均注文単価は4.5〜6ドルとShopeeの13〜15ドルの半分以下。動画を見て衝動的に買う低単価・高頻度の消費が中心で、従来型ECの1.7倍の購買転換率とされます。単価の低い日用品・雑貨・コスメを扱うセラーほど、TikTok Shopの動向が自分の商材の需要に直結する構図です。
タイ: 美容が牽引する、モバイル漬けの消費者
タイはネット利用者6,540万人(人口の約91%)、1日の平均スクリーンタイムが8時間を超えるモバイル漬けの市場で、2024年のEC取引額は前年比15%超の成長でした(Sellercraft)。カテゴリでは美容・パーソナルケアが常に上位で、ファッション、家電、食品・FMCG、ホーム&リビングが続きます。ペット用品が「伸びている衝動買いカテゴリ」として挙がっているのも面白いところです。
消費者は「価格に敏感だがブランドも見る」タイプで、9.9や11.11などのメガセールへの反応度が高く、7割超がQR・電子ウォレットで決済します。前段の抹茶(タイはRTD・アレンジ派)や日本コスメの強さと合わせると、美容×日本品質はタイで最も分かりやすい勝ち筋のひとつです。
ベトナム: TikTok Shopがシェア4割へ——販路の勢力図
ベトナムのプラットフォーム勢力図は把握しておきたい変化が起きています。Vietnam Briefingがまとめた2025年1〜9月の集計では、主要4プラットフォーム(Shopee・TikTok Shop・Lazada・Tiki)の合計売上は116.2億米ドルで前年同期比34.4%増。シェアはShopeeが56%で首位を守る一方、TikTok Shopが41%まで伸長(売上成長率は前年比69%)し、Lazadaは3%、Tikiは売上8割減と明暗が分かれています(Vietnam Briefing)。オンライン購入者の72.5%はZ世代とミレニアル世代です。ベトナム向けの販売を考えるなら、Shopee単独ではなくTikTok Shopを含めた販路設計が前提になりつつあります。勢力図の詳細は単独記事「ベトナムECの勢力図(2026年版)」へ。
フィリピン: 日本ホビーの熱狂が続く
フィリピンでは日本ホビーの強さが続いています。Shopee公式の3月データでは「日本のホビー品が熱狂的に支持されており、特にベイブレードXの本体やパーツの需要が急増中」とされ、新作が出るたびに日本から直接取り寄せたいコレクターの存在が指摘されています(Shopee Japan)。6月号でも文具(カクノ万年筆)が上位に入っており、「日本でしか買えないもの」を求める若い消費者層がこの市場の特徴です。トレカ・ホビー・文具を扱うセラーにとって、フィリピンは検索需要を確認する優先度の高い市場と言えます。
インドネシア: 強まる「国産優遇」——越境セラーが知っておくべき3つの変更
東南アジア最大の市場インドネシアでは、国産品を優遇する制度変更が立て続けに施行されています。越境セラーに関わるものを3つ整理します。
① 新EC規制Permendag 19/2026が6月8日施行。プラットフォームに全手数料の開示とセラー同意の取得を義務付けたほか、検索結果で国産品・中小企業(MSME)製品を優先表示する義務が課されました。越境セラー側には、公証済み事業許可・製品規格適合の証明・インドネシア語の商品説明などの提出が求められ、1点あたりUSD100のFOB最低価格(輸入品の下限価格)も維持されています(Nusantara DFDL)。
② 国産MSME向けの手数料50%減免(6月17日〜)。政府の認証を受けた国内中小・零細企業が国産品を販売する場合、Shopee・TikTok Shop・Lazadaのプラットフォーム手数料が半額以上減免されます。輸入品・越境販売は対象外で、国産品との価格競争条件が一段階不利になります(MOCA Tech)。
③ 8月1日からマーケットプレイス経由の所得税徴収。Shopee・Lazada・Tokopedia・Blibliの4社が、年間総売上Rp5億超のセラーから総売上の0.5%を22条所得税として徴収します。当局は「新税ではなく徴収方法の変更」と説明しています(ANTARA News)。
インドネシアは市場規模が大きい一方、越境販売への制度的な逆風が最も強い市場になりつつあります。参入・拡大を検討する場合は、この3点を織り込んだ上での判断が必要です。
セールカレンダー——7.7が終わり、年後半は9.9から本番
シンガポールのShopee 7.7セールは7月6日20時から7月11日までの124時間開催で、S$400以上の購入に使えるS$77オフのフラッシュバウチャーが目玉でした(MissLobang)。Lazadaも7月7日から対抗セールを実施。同記事によると、プラットフォームのバウチャーは毎月15日・25日前後にも補充されるため、セール後も値引き露出の機会は続きます。
年後半のカレンダーはこうです(Salendar)。8.8はファッション・美容に寄せたライブコマース中心のセール、9.9が年末商戦(Year-End Shopping Season)の開幕で、10.10(ブランド訴求)、11.11(年間最大)、12.12(Shopee周年)と続きます。毎月15日・25日前後の「ペイデーセール」(給料日商戦)も定常運転です。東南アジアの売上はこのダブルデーの波で動くため、セール当日ではなく2〜3週間前の仕込み(在庫・出品・広告)から逆算するのがこの地域のリズムです。9.9に間に合わせるなら8月中旬が準備の締め切りになります。
短信: 販促チャネルと手数料の動き
- Shopee・LazadaがMetaアフィリエイト連携を拡大 — Lazadaは7月8日にFacebookアフィリエイトプログラムへ参加(6カ国、Instagram対応は近日)(The Manila Times)。Shopeeも今月頭にInstagram対応を8市場で開始しており(Marketing-Interactive)、出品商品がクリエイター経由でSNS面に露出する経路が両プラットフォームで揃いました
- TikTok Shopブラジルが7月15日から手数料改定 — R$50未満の商品は販売手数料6%→10%、R$50以上は1点あたり固定手数料が50%増のR$6に。低単価帯ほど影響が大きい改定です。同報道によるとShopeeブラジルも8月1日からアフィリエイト報酬の税務報告義務をセラー側に移します(Shopifreaks)
