今週は8月11日のSea Limited決算が、東南アジアの「買われ方」を数字で見せた週でした。買い手は増え、注文は増え、そして買い方の入口が静止画のカタログから動画へ移り続けている——ここまでは追い風の話です。同時に、その注文を売り手が取りに行くための条件も変わりました。GMV(流通総額)が+28.4%伸びた四半期に、Shopeeの「取引手数料と広告を中心とする」収入は+65.6%伸びています。今週は需要側の変化を先に整理し、そのうえで9.9に向けたセールカレンダーと、マレーシアの手数料改定を含む運用連絡を末尾にまとめます。
動画経由の注文がSEAの実物商品の4分の1を超えた
Seaの決算説明会で、Forrest Li CEOは「ライブ配信と短尺動画からの注文が前年比50%超で伸び、東南アジアの実物商品注文の25%以上を占める」と述べています(決算説明会の書き起こし)。同じ説明会では、Facebook上のクリエイター経由のアフィリエイト注文が前四半期比で85%超伸びたこと、Instagramとの連携を主要8市場すべてに広げたことも挙げられました。
なお、以下で「説明会によると」とした数値は、いずれもThe Motley Foolによる第三者の書き起こしから採っています。Sea公式の確定文書ではなく、実際この書き起こしにはMoneeのローン残高が同一記事内で「+52%」と「+62%」に食い違うなどの誤記が残っています(公式リリース側は+62.5%)。金額・成長率の確定値は次節の公式リリース側を参照してください。
これは「ライブコマースが伸びている」という一般論ではなく、Shopeeという特定のプラットフォーム上で、商品ページに至る導線の4分の1がすでに動画側に移っているという話です。日本の出品者にとっては、商品画像と説明文だけを整えても届かない在庫が生まれつつある、という意味になります。
背景として、NielsenIQが7月17日に出したリリース(レポート『The Commerce Revolution: Where East Meets West』自体は2026年4月刊)は、中国のライブコマース市場が2025年に約9,000億ドルに達し、米国のEC市場全体に迫る規模だとする市場推計をレポートから引用しています。ただしNIQはこの数字について、自社の測定値ではなく第三者の推計であり独自検証もしていないと同リリース内で注記しています。一方、NIQ自身の消費者調査に基づく数字として、アジア太平洋の消費者の59%がすでにソーシャル経由で購入経験があり、北米・欧州の未経験率(67〜68%)とは対照的だとしています(NielsenIQ公式リリース)。Shopeeの数字は、この地域差の中に置くと外れ値ではありません。
買い手は増えている: 新規購入者+35%、VIP会員がアジアGMVの24%
同じ説明会によると、Shopeeの月間平均の新規アクティブバイヤーは前年比35%超の増加で、これは「これまでの四半期から大きく加速した」と説明されています。月間アクティブバイヤーは+18%、購入頻度は+8%。会員プログラムのShopeeVIPは6月末で1,500万人を超え(前四半期比+25%)、アジアでは会員がGMVの24%を占め、月次のリテンションは約80%だと述べられました。
売り手の側から読み替えると、「新規の流入は増えているが、GMVの4分の1は会員という固定客層から出ている」という構図です。単発の値引きで新規を取る設計と、再訪してもらう設計は、当たる面が違うことになります。
物流面では、インドネシアの即時配送の取扱量が前年比約80%増、1件あたりコストが約20%減。一部市場ではフルフィルメント経由の荷物の60%超が翌日に到着しているとされました(数値はいずれも説明会の書き起こしより)。
そのぶん、取り分は上がった
公式の決算リリース(SECに6-Kの添付として提出)ベースの数字は次のとおりです(Exhibit 99.1)。
- Shopeeの四半期GMV: 383億ドル(+28.4%)、総注文数42億件(+27.5%)
- Shopeeの会計上の売上: 56億ドル(+48.2%)
- うちコアマーケットプレイス収入(取引手数料+広告が中心): 43億ドル(+65.6%)
- 付加価値サービス収入(物流関連が中心): 6.76億ドル(−9.0%、送料補助との相殺が増えたため)
- Shopeeの調整後EBITDA: 2.554億ドル(+12.2%)
GMVが+28%のときに、手数料・広告を中心とする収入が+66%伸びている——というのが今四半期のいちばん実務的な数字です。説明会では広告収入が+70%超、広告テイクレートが前年比90ベーシスポイント超の改善、広告を出稿するセラー数が約45%増、セラーあたり平均出稿額が15%超増だと説明されました。
今後について、Hou Tianyu CFOは「固定的な手数料の引き上げペースはこれまでより緩やかになるだろうが、広告からのテイクレートを含めた全体としては引き上げる余地がまだある」という趣旨の発言をしています。予測として受け取る必要はありませんが、値付けの前提を置き直すときの材料にはなります。通期については、Shopeeの調整後EBITDAで10億ドル、GMV成長率で約25%という従来見通しが維持されました(為替の逆風と、Q3・Q4の高い比較対象には言及あり)。Retail Asiaは翌8月12日に、このうち調整後EBITDA 10億ドルの見通しを報じています(記事)。
国別の需要メモ
インドネシア — 8月17日の独立記念日(建国81周年)に向け、Shopeeは「17.8 Festival Pilih Lokal」(ローカルを選ぼう)という名称でキャンペーンを組みました。8月10〜11日はファッション、12〜15日は美容・パーソナルケア、16日は生活用品、17日がピークという日割りで、最大81%オフのバウチャーに加え、ShopeePayではRp17のバウチャー、ShopeeFoodではRp17からのメニューが並びます(Medcom.id)。名称に「Pilih Lokal」が入っている点は、この市場の力点がどこにあるかを示しています。
シンガポール — Retail Asiaに載った署名コメンタリーが、越境ECの競争軸を「速い配送」から「発見」に置き直す議論を出しています。現地で買えるもので妥協せず、5つのプラットフォームを横断して探し、割高でも数週間待つ買い手の行動は、利便性では説明できない——グレーディング済みトレーディングカードや限定コラボのように、希少性と真正性そのものが価値になっている、という論旨です(コメンタリー)。ただし筆者は韓国の中古取引大手Bunjangのチェ・ジェファ(Jaewha Choi)CEOで、同社はシンガポールを含むAPACで越境リコマースを展開しています(TNGlobalのインタビュー)。「希少性とリセールが越境ECの主戦場になる」という主張が自社の事業と重なる点は割り引いて読む必要があります。
同記事が引くKOFICE(韓国国際文化交流振興院)と韓国文化体育観光部の「2026年海外韓流実態調査」(2026年3月発表)は、30カ国・27,400人を対象に今年からシンガポールを調査対象に加えたもので、食が体験率で首位に立ったと報じられています(The Korea Herald)。日本商品にそのまま置き換えられる話ではありませんが、「安くて早い」以外の理由で越境される市場が実在する、という点は共通します。
決済まわりでは、ShopeePayがGoogle Playの決済手段としてシンガポールで使えるようになったと、8月13日に同社が発表しました。SPayLater(後払い)やShopeePay連携のクレジット/デビットカードも対象で、初回購入向けに8月31日まで最低利用額なしのS$5オフが付きます(Singapore Business Review)。
タイ — ホームインプルーブメント(DIY)大手のHomeProが第2四半期に増収へ転じ、売上は前年同期比3.4%増の181億バーツ。ただし上半期では2.5%減、既存店売上は7.0%減で、第2四半期の回復について会社側は、「昨年より暑かった4月」が冷房関連需要を押し上げたことを一因として挙げています。同じ記事は、5月中旬の雨季入りでその需要が減退したことにも触れています(Inside Retail Asia)。天候要因が絡む回復である点は、季節商材の読み方として押さえておくところです。
日本商品の動き — Shopee Japanの8月号「人気急上昇商品」は、ベトナムで資生堂 IHADAのフェイスプロテクトパウダー(9g)が売上上位、ブラジルで小林製薬のブレスケア(50粒+詰め替え用100粒)が売上額トップだったとしています。中身は8月13日のトレンドウォッチで扱いました。
セールカレンダー: 9.9はShopee公式ページが稼働、10.10〜12.12も2026年版が公開済み
前号時点では「例年パターン」の扱いだった9.9ですが、Shopeeシンガポールの公式キャンペーンページが2026年版として稼働しているのを確認しました。本文に掲載されている設計には、$450以上で$99引きのフラッシュバウチャー、$9/$99/$699の価格帯を軸とした最大90%オフ、Shopee Mallのブランドフラッシュセール、翌日配送の保証、他社でより安い価格を見つけた場合に差額の120%を返す「Lowest Prices Guaranteed」があります。加えてページのタイトルとメタ説明には、$100,000の現金が当たるキャンペーン(Win $100,000 Cash)、$300分のキャッシュバックバウチャー、Shopee Liveの30%オフクーポンの増額版(Upsized 30% Off)が挙げられています。ページ上に開催日程の明示はありません。
同様に、10.10(Brands Festival Sale)、11.11(Big Sale)、12.12(Birthday Sale)もそれぞれの公式ページが2026年版で公開済みで、年末までの4つの山の名称が確定した形です。カレンダー本体はセールカレンダーを更新しました。8.8とASEAN Online Sale Dayの実績値については、今週時点でも公式発表を確認できていません。
短信
- マレーシア: 8月14日からコミッション改定 — Shopee Malaysiaは、MarketplaceとShopee Mallの双方で8月14日付のコミッション料率改定を公式ヘルプに掲載しました。料率はカテゴリとShopee Cashback Programme(SCP)への参加状況で変わり(Marketplace側はさらにクラスタ/サブカテゴリでも変動)、公式ページ上は表が画像で提供されているため、実額はセラーセンターで自分のカテゴリを確認する必要があります。日本の出品者にとって重要なのは、両ページとも越境(Overseas)セラーの料率には適用されないと明記している点です(Marketplace側はさらに「現地セラーのみ」と限定)(Marketplace / Mall)。
- マレーシア: 新規セラーの課金開始条件と生活必需品の減免 — 同じヘルプによると、8月1日以降、新規のMarketplaceセラーは「最初の商品を出品して120日超」または「完了注文200件超」のいずれか早い方に到達するまでコミッションが課金されません。減免の適用時期は面で異なり、Marketplaceは5月21日以降に100を超えるカテゴリ、Mallは8月1日以降に100を超える生活必需品カテゴリが対象とされています。
- クイックコマースは「店舗の役割」を書き換える — Kearneyの8月レポートを紹介したRetail Asiaの記事は、消費者が「事前に計画して買う」から「その場で困りごとを解決する」へ移りつつあり、店舗がフルフィルメント/サービス拠点の性格を強めうると整理しています。この慣れがやがてAIエージェントによる購買代行への抵抗感を下げる可能性にも触れています。いずれも同記事が伝えるレポートの見立てであり、Kearney原典そのものは今週時点で確認できていません(記事)。
