今週の東南アジアは、日本のキャラクターIPが劇場と店頭の両方から同時に入ってきた週でした。『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が8月20日にシンガポールとマレーシアで公開され、MINISOはサンリオのポップアップを5カ国で回し始めています。どちらも「グッズを売る」というより「特典と体験で来場を作る」設計です。日本でこの夏効いた仕掛けが、形を変えて現地に持ち込まれています。あわせて、プラットフォーム側の数字と、日系小売の重心移動をひとつずつ見ていきます。
ちいかわ映画がシンガポール・マレーシアで同時公開、特典は8月22日単日のバンドルに
まず日本側の状況から。『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』は7月24日公開で、8月16日までの24日間で興行収入92億8000万円、観客動員645万人に達しました(MANTANWEB)。原作はナガノ氏がXで2020年から連載している漫画で、『日本キャラクター大賞』のグランプリを4回受賞しています。
この興行を押し上げているのが数量限定の入場者特典です。第2弾の「ボンボンドロップシール」が8月8日、第3弾の「ごきげんセイレーン♪」(セイレーンの背に乗るキャラクターのプルバック走行トイ、全3種)が8月22日から配布開始。東洋経済オンラインのコラムは、ランダム配布が複数回鑑賞を促し、非ファンの新規客まで引き込んだと整理しています(記事、8月14日、ライター押入れの人)。
その裏返しとして、公開初日には第1弾のチャームミニフィギュア(全8種からランダム1個)がフリマサイトで1個1100円以上、未開封10点セットが2万5000円以上で取引され、Xで「入場者特典」がトレンド2位に入る事態になっています。映画公式サイトは「入場者特典は非売品です。転売、内容の複写・複製などの行為は一切禁止」と明記し、同一上映回で1人1個、入場時のみの配布としていました(ORICON NEWS、7月24日)。
そして今週、この特典型の集客が東南アジアでも動き始めました。ただし形は同じではありません。日本の入場者特典が全上映回で無料配布されるのに対し、シンガポール・マレーシアで用意されたのは8月22日単日の有料バンドルです。
- シンガポール: 8月20日公開。日本語音声・英語/中国語字幕、99分。Golden Villageの10館(Cineleisure、Bugis+、Bishan、Jurong Point、Katong、Paya Lebar、Suntec City、Tampines、VivoCity、Yishun)で上映されています(GV公式)。加えて8月22日にGV Suntec CityでFans' Screeningが組まれ、S$30(GVメンバーはS$28)のチケット1枚につき「日本版のミニチャームブラインドパック(全8種ランダム)」「日本版A3キービジュアルポスター」「コレクタブルチケット」が付きます。同日12:00から15:05まで10回の上映枠が設定されました(GV公式)。
- マレーシア: 同じく8月20日公開。日本語音声・英語/マレー語/中国語字幕、P12指定で、GSCとTGVの両チェーンが上映しています(GSC公式 / TGV公式)。GSCは8月22日に5拠点(LaLaport BBCC、1 Utama、IOI City Mall、Gurney Plaza、Mid Valley Southkey)でファンスクリーニングを実施し、RM60のバンドルに映画チケット、A3ポスター、マーカーチャーム(ランダム)、コレクタブルチケットが含まれます。先着順・在庫限りで、特典単体の分離や現金交換は不可です(GSC公式)。
セラー視点で押さえたいのは、シンガポールのGVが、付属するチャームとポスターを「Original Japanese version」「Japanese Version」と明示して売り文句にしている点です(この表記は上映バージョンではなく特典に付いています)。一方、マレーシアのGSCは同じ枠のマーカーチャームを「given at random」とだけ記載しており、日本版であることを訴求材料に使っている例は、今週時点ではGVでのみ確認できました。ただしキャラクターグッズは権利物なので、正規流通品の取り扱い可否は自分の仕入れルートで個別に確認が必要です。日本国内の入場者特典は上記のとおり公式に転売禁止が明記されており、これを仕入れて出品する選択肢はありません。タイ・ベトナム・インドネシア・フィリピンでの公開については、今週時点で各国チェーンの公式上映情報を確認できていません。
MINISOがサンリオで5カ国ポップアップ、106SKUにブラインドボックスとサプライズボックス
MINISOは8月から10月にかけて、サンリオとの「My sun-kissed party」ポップアップを東南アジア5カ国で回しています。8月12日のシンガポール(Bugis+)を皮切りに、マレーシアが8月31日(Pavilion Kuala Lumpur)と9月21日(IOI City Mall Putrajaya)、インドネシアがBeachwalk Bali とCentral Park Mall Jakarta、タイがバンコクのTerminal 21 Asok、ベトナムがホーチミン市のVan Hanh Mall という並びです(Marketing-Interactive、8月12日、A'bidah Zaid Shirbeeni)。
商品構成は外部調達品を除いて106SKUで、ソフビフィギュア、ブラインドボックス、キーチェーン、ぬいぐるみ、バッグ、ヘアアクセサリー、デジタル小物など。東南アジア初投入は「Sanrio Surfing collection vinyl plush surprise box」と「Sun-kissed summer collection surprise box ornament」の2つで、どちらも中身が見えないサプライズボックス形式です。フォトブース、限定デザインのレシート、「Fun fan passport」といった来店動機の設計が組み合わされ、インドネシアの一部会場では初日にキャラクターのミート&グリートも実施されます。
ちいかわ映画のファンスクリーニングと並べると、同じ設計が二つ重なっているのが分かります。ランダム性(ブラインドボックス/ランダム特典)と、その場に行かないと手に入らない限定性をセットで使う型です。日本のキャラクターIPが東南アジアで売られるとき、単品そのものより「引く体験」に価格が乗る売り方が、今週は劇場と店頭の両方で走っていました。なお、この型が過熱と反動をともなうことは、当メディアで追ってきたPop Martの事例(7月23日号)が示すとおりです。
TikTok Shopの東南アジアは上半期347億ドル、ただし越境はGMVの約12%
中国系リテールを追うアナリスト Ed Sander が8月19日に出したレポートは、東南アジアのTikTok Shop(TTS)を数字で整理しています(China Digital Retail Report)。以下の数値はTikTok Shop公式の発表ではなく、同レポートが15人超の匿名専門家インタビューと外部記事を突き合わせて示したものです(個々の出典は記事末尾に列挙されています)。
同レポートは、Momentum Works の集計として、TTSの東南アジアGMV(流通総額)が2026年上半期に347億ドル、前年同期の192億ドルから80%増だったと伝えています。この数字のMomentum Works原典そのものは、今週時点では確認できていません。2025年末時点の東南アジアEC市場シェアは25〜27%(GMVベース)で、Shopeeの39〜40%を追う位置とされます。プラットフォーム全体では上半期のグローバルGMVが503億ドル(前年同期比92%増)、米国が118億ドルというのがMomentum Works自身の発表です(The Low Down、8月6日)。
ただし、日本の越境セラーの立場から読むと、この伸びには入りにくい要素が並びます。
- **越境はGMVの約12%**にとどまり、残りは現地セラーによるもの。越境は公式指定の物流業者を使うことが必須とされています。
- 手数料の合計負担は10〜15%。内訳はコミッション5〜10%、物流2%、広告費で、インフルエンサー経由のコミッションを加えると20%を超えることもあるとされています。
- 東南アジアの越境セラーは「気が変わった」区分の返品で往復の送料を負担することになった、と同レポートは伝えています。時期を同レポートは「4月末」としていますが、遡ると原典は英語ニュースレターChinesellersの2026年3月26日付ラウンドアップ1本で、そちらは「4月20日の週から」と書き、TikTok Shopのセラー向け情報を情報源としています。TikTok Shop公式の告知そのものは今週時点で確認できていません。
- 平均注文単価はTTSが約7.5ドルで、東南アジア市場全体の12〜13ドルより明確に低い。
つまり「高頻度・低単価の商品を、現地在庫で、広告を回して売る」形に最適化された伸びであり、日本からの越境で単価を取りに行く売り方とは前提が違います。
同レポートは市場全体の見取り図も示しています。いずれもTTS単体ではなく東南アジアEC市場全体の数字である点に注意が要りますが、カテゴリ構成はFMCG(日用消費財)が約30%で最大、次いで家庭用品が約20%、アパレルと美容・パーソナルケアが各14〜15%。GMVの内訳はライブ配信EC40%・従来型EC40%・短尺動画EC20%です。Shopee側の数字としては、検索経由でライブルームに入った購入まで含めた「ライブ関連事業の総売上シェア15.02%」が、同社社員の引用データとして紹介されています。
イオンがタイのスーパーを売却、ASEAN投資の6割をベトナムへ
イオンは8月7日、タイのスーパーマーケット事業から撤退し、子会社AEON (Thailand)(イオンタイランド)の全株式をセントラル・グループ傘下のセントラル・フード・リテールへ売却すると発表しました(株式譲渡契約は同日締結)。対象はMaxValuおよび小型のMaxValu Tanjaiの30店舗で、譲渡は9月30日、約1300人の従業員は雇用が維持される見込み、売却額は非開示です。日本経済新聞によると、イオンは撤退の理由としてタイの内需が高級志向と低価格志向に二極化し、現地勢との差別化が難しくなったことを挙げ、今後はベトナム・マレーシア・カンボジア・インドネシアに集中するとしています(日本経済新聞 / Nikkei Asia)。タイではドラッグストアや金融サービスなどは継続します(発表日を「8月9日」と記す媒体もありますが、日経は8月7日、日経アジアは「金曜」=8月7日としており、本稿は後者を採ります)。
Inside Retail Asia の分析によると、イオンのタイのスーパーは2016年のピーク時に約80店舗あり、そこから10年でおよそ6割縮小していました。競合はCP AxtraのLotusが約2400店、Centralのトップスが736店超という規模です(記事、8月18日、Tong Van)。
移し先はベトナムです。イオンはASEAN投資予算の最大6割をベトナムに振り向けるとされ、2030年度にベトナムでの売上3000億円超(2025年度比でほぼ3倍)を目標に、モール30、総合スーパー/スーパー約100、小型店約200という展開像を示しています(店舗数と売上目標はInside Retail Asiaの整理)。ベトナムの近代小売が市場全体の約15%にとどまり、マレーシアの約50%と比べて余地が大きいという見立ては、7月中旬にイオンベトナムのゼネラルディレクター Tezuka Daisuke 氏が述べた同社の説明として、VIRが伝えているものです。
これは越境ECの話ではありませんが、日本商品が現地の棚に並ぶ経路の重心がどこへ動くかという話ではあります。上記の出店計画がそのまま実行されれば、ベトナムで日本商品が現地小売経由で並ぶ売り場は増えることになります。実際の進捗は今後の開示で追います。
短信
- POP TOY SHOW Singapore は8月21〜23日 — POP MARTのトイコンベンションが今年は世界でシンガポール1回のみという件は8月13日号で扱いました。今週末が本番です。
- 9.9に向けた各国の動き — セールカレンダーと各プラットフォームの運用連絡は週刊ダイジェスト8月17日号にまとめています。
