8.8ウィークが最終日を迎えました。各社の実績値は本稿執筆時点では確認できていませんが、今週は「買い手側の体温」を測る材料がまとまって出た週でした。UOBが5カ国を対象に実施した消費者心理指数は域内平均54で横ばい、しかし国別に開くとベトナム63とインドネシア49の間に14ポイントの差があります。シンガポールは心理が域内最大幅で改善した一方、通年の小売の伸びは3%へ減速するとの見通しが出ました。プラットフォーム側では、Momentum WorksがTikTok Shopの上半期GMVを503億ドル(前年同期比+92%)と報告し、「売れる導線」が米国と東南アジアで別方向に分かれている点を指摘しています。インドネシアでは、前号で取り上げた0.5%源泉徴収が施行4日で停止し、11月1日へ延期されました。
ASEANの消費者心理: ベトナム63で最も強気、インドネシアは49で中立割れ
UOBが7月24日に公表した2026年版のUOB ASEAN Consumer Sentiment Index(以下、消費者心理指数)は、域内平均が54で前年から横ばいでした。ただし国別には差がはっきり出ています。ベトナムが63で域内最高(前年比4ポイント低下も依然トップ)、シンガポールが56(9ポイント上昇、域内最大の改善幅)、タイが51(4ポイント上昇)、マレーシアが50(3ポイント低下)、そしてインドネシアが49(前年55から低下)で、5カ国のうち唯一、中立水準の50を下回りました(UOBは50超を楽観と定義しており、50未満を悲観と定義してはいません)。調査は2026年5〜6月にオンラインで実施され、インドネシア・マレーシア・シンガポール・タイ・ベトナムの18〜65歳、計5,000人が対象です(Manila Times掲載のUOBリリース)。
同じ調査の中でも、マクロ(経済環境)のサブ指数は61へ3ポイント上昇したのに対し、ミクロ(自分の家計)のサブ指数は52から51へ下がっています。家計支出の増加・減給の可能性・長期の金銭的コミットメントを維持できるかという3項目の懸念が、それぞれ前年から3ポイントずつ悪化した結果です。ただしUOBは家計面についても「楽観」と整理しており(ミクロの51は中立の50超)、「来年は自分の家計が今より良くなる」と答えた人はむしろ4ポイント増の60%です。域内平均ではマクロが3ポイント改善する一方でミクロは1ポイント下がっており、UOB自身も「マクロ環境への強い楽観が域内の信頼感を支える一方で、消費者は自分の家計については慎重なままだ」と整理しています。
セラー視点: この調査は消費「意欲」を測るもので、実際の購買額でも品目別の需要でもありません。それでも、国別に14ポイント開いているという事実は、広告予算や在庫の配分を「東南アジア」でひとまとめにせず国単位で見る根拠にはなります。特にインドネシアは、後述の税制延期の理由としても政府自身が購買力を挙げており、複数の材料が同じ方向を指しています。
シンガポール: 心理は9ポイント改善、それでも小売の伸びは3%へ減速見通し
Retail Asiaによれば、シンガポールの改善はマクロ・家計の全指標がそろって上向いたことによるものです。経済認識では、現在の景気を肯定的に見る回答が16ポイント上昇して66%、先行きへの信頼が13ポイント上昇して63%になりました。家計面でも、家計支出への懸念を挙げる回答が減り、長期の金銭的コミットメントを前向きに捉える回答が前年より増えています(家計側の指標について出典に数値の記載はありません)。2025年9月の前回調査ではシンガポールは47と域内最下位でしたから、そこからの反転です。UOBは、AI関連需要が製造・卸売・運輸倉庫を支え、サービス業へ波及した上半期の成長を背景に挙げています。CDCバウチャーやU-Saveリベートといった生活費対策も家計負担を和らげたとしています(Retail Asia)。
一方で、実際の小売の数字はそこまで強くありません。RHBは、2026年通年のシンガポール小売売上の伸びを、上半期の4%から3%へ減速すると見込んでいます。6月の小売売上は前年同月比4%増と5月(改定後2.9%増)から加速し、前年同月比では14セグメント中10で増加しました。一方、前月比では8セグメントが減少しています(出典は以下の4分野を、この前月比減少の文脈で列挙しています)。娯楽用品が11.2%減、ミニマート・コンビニが5.4%減、眼鏡・書籍が3.9%減、コンピュータ・通信機器が2.7%減です。訪問者数は6月に前年同月比4.9%減の118万人、UOBの集計では第2四半期が6.6%減で2019年比81%の水準にとどまりました。第2四半期の人員整理は4,500人(第1四半期3,830人)へ増えています(Singapore Business Review)。
家計の財布には、もうひとつ構造的な穴が開きうる、というデータも出ています。Blackbox Researchが8月3日に公表した調査(2026年7月実施、シンガポール在住18歳以上、サンプル数507)では、シンガポールとジョホールバルを結ぶRTS Linkが開通した場合、回答者の43%がシンガポール国内のカジュアル外食・カフェ・テイクアウトへの支出を減らすと答えました。高級・記念日向け外食は14%、バー・ナイトライフは8%にとどまり、日常消費ほど流出しやすい構図です。半数超が、開通後は食料品の買い物・外食・買い物のいずれかで四半期に1回以上ジョホールバルを訪れうると答えています(Blackbox Research、Singapore Business Review)。Blackbox自身が、この調査は運行の安定性や国境通過が良好な条件下での「意図した行動」を測ったものであり、開通後に実際に起きた行動ではないと注記しています。サンプル数507という規模もあわせて、割り引いて見る必要があります。
セラー視点: 外食の話ですが、示しているのは「日常の裁量支出ほど安いほうへ移る」という力学です。シンガポールは域内で最も心理が改善した市場でありながら、娯楽用品やファッションのような裁量カテゴリはRHBが軟化を予想している側にいます。単価の高い商品を心理指数の改善だけを根拠に押し込むのは早い、という程度には効く材料です。
フィリピン: 「治療」から「予防」へ、服は「長く着られる定番」へ
マニラで開かれた第32回National Retail Conference and Expoから、需要側の証言がふたつ出ています(Unilabへの取材は8月6日)。
ヘルスケア大手Unilabのトレードマーケティング責任者Marvin Marañon氏は、フィリピンの買い物客が「病気を治すことよりも、能動的なウェルネスを優先するようになった」と述べました。求められる商品像として、天然由来・科学的裏付けがある・手軽に使える、という条件に加え、メンタルヘルスと睡眠に関わるもの、そして信頼できる伝統的な原材料を使ったものを挙げています。同氏は、手ごろで入手しやすい商品、オンライン販売、フィリピン人向けにパーソナライズされた提案に機会があるとしています(Retail Asia)。
アパレルのGolden ABC(Penshoppeグループ)で戦略・オペレーション担当VPを務めるBryan Liu氏は、2026年のフィリピンのファッション消費について「流行商品と、品質の良いベーシックとの間で、もう少しバランスが取れてきている」と述べました。同社の対応は、品質基準を維持しつつ、長く着られる定番寄りのスタイルを増やすこと、そしてコストを消費者へ転嫁せずに済むようコスト管理を強めることです。加えて、発見から購入までの間に顧客がチャネルを行き来するため、店舗網とデジタルを分けずに施策を設計しているとしています(Retail Asia)。
セラー視点: どちらも当事者企業の見方であって統計ではありません。ただ「予防・睡眠・メンタルヘルス」と「長持ちする定番」という二つのキーワードは、日本発の商材で言えばサプリメント・睡眠関連雑貨・ベーシック衣料が該当し、いずれも訴求文の書き換えで対応できる範囲です。フィリピン向けのページで「効きます」ではなく「毎日続けやすい」「長く使える」を前に出すだけでも、語られている需要の向きには寄ります。
TikTok Shop: 上半期グローバル503億ドル。ただし「どこで売れるか」は米国とSEAで違う
Momentum Worksが8月6日、データ分析基盤Tabcutとの共同レポート「TikTok Shop in the U.S. H1 2026」の公表にあわせて要点を出しました。TikTok Shopのグローバル流通総額(GMV)は2026年上半期で503億ドル、前年同期比92%増で、通年では1,000億ドルを余裕をもって超える見込みとしています。米国は上半期118億ドル(103%増)で、再びTikTok Shop最大の市場に戻りました(Momentum Works)。
セラーにとって重要なのは、その先の内訳です。**米国では、GMVの帰属先としての「Shop(マーケットプレイス面)」の比率が36%から51.4%へ上がり、「Live」は8.2%まで縮みました。**動画は40.4%を占めますが、Momentum Worksはこれを主に発見の導線と位置づけています。同社は明示的に、これは中国と東南アジアで主流のライブ主導の販売とは異なるコンバージョンモデルだと述べ、中国・東南アジアで効く定番の手法の多くが米国では機能しなかったとしています。競争環境の指標としては、27カテゴリのうち21カテゴリで平均価格が下落し、GMV上位10インフルエンサーのうち8組が新顔でした。100万ドル超のストアは5,700店以上(前年比8倍)、うち1,000万ドル超が506店です。
なお、上記のShop/Live/Videoの比率、価格下落、インフルエンサーの入れ替わり、100万ドル超・1,000万ドル超のストア数は、いずれもレポートの対象である米国市場の数字です。東南アジアの同じ指標は今回の公表内容には含まれていません(レポート本体は有料、52.95ドル)。
東南アジア側の材料としては、TikTok Shopが8月4日にシンガポールで初のTikTok Shop Singapore Summitを開き、シンガポールのGMVが直近1年で前年比1.7倍、月間購入者数が1.6倍になったと発表しています。同社は2027年末までに少なくとも1,000社のシンガポール国内セラー、2026年末までに3,000人超のクリエイターを育成対象とし、LIVE販売の基礎を学ぶ「GO LIVE Academy」、規模拡大向けの「Growth Accelerator Programme」、ブランド構築向けの「Brand IP Accelerator Programme」を並べました(Media OutReach配信のTikTok Shopリリース)。
セラー視点: 出典が述べているのは「中国・東南アジアで効く手法の多くが米国では機能しなかった」という一方向の事実で、逆に米国型の「Shopで閉じる」導線が東南アジアで通用するかどうかには触れていません。読み取れるのは、東南アジアがライブ主導であるという前提が今回の公表内容では覆っていない、という程度までです。米国とアジアの数字を並べて語る資料を見るときは、どちらの市場の話かを都度確認するのが安全です。バズ商品そのものの動きは8月6日のトレンドウォッチで扱っています。
セールカレンダー: 8.8ウィークは最終日、次の山は9.9。8月11日にSea決算
8月8日のダブルデーは終了し、ASEAN Online Sale Day(会期は8〜10日。詳細は前号)は本稿公開時点で最終日です。マレーシアのShopeeは「8.8 Merdeka Sale」として8月9日までを会期とし、当日配送「Buy Today, Get Today」と88%オフバウチャーを軸に組んでいました(Media OutReach)。8.8の実績値については、各プラットフォームからの公式発表を本稿執筆時点では確認できていません。確認でき次第、常設のセールカレンダーに反映します。
次の山は9月9日の9.9スーパーショッピングデーです。年内の残り(9.9、10.10、11.11、12.12)はいずれも例年パターンとして日付が固まっているものの、2026年分の個別公式発表はまだ確認できていないため、カレンダー側では「例年」表記のままにしています。
8月11日(米国時間)には、Shopeeを運営するSea Limitedが第2四半期決算を発表します。米国市場の寄り付き前にリリースし、米国東部時間7時30分(シンガポール時間同日19時30分)から電話会議が行われる予定です(7月28日付のSea Limited公式リリース。原文はBusiness Wire配信で、本稿は配信転載を参照)。四半期のGMVと各国別の言及は、来週号で扱います。
短信
- インドネシア、0.5%源泉徴収を施行4日で停止し11月1日へ延期。徴収済み分は返還。 前号でお伝えした、Tokopedia・Shopee・Lazada・Blibliの4社が出品者の売上総額の0.5%を第22条所得税として源泉徴収する制度が、8月1日の施行から数日で止まりました。国税総局長のBimo Wijayanto氏は延期前、4社に対して源泉徴収の技術対応のための1カ月の移行期間を設けていました(ANTARA News英語版)。国税総局(DJP)は財務省規則(PMK)37/2025の適用を10月31日まで見送り、徴収開始は11月1日とする方針を公示番号PENG-46/PJ.09/2026で示し、8月1日以降にマーケットプレイスが国内事業者から徴収済みの分は事業者へ返還するよう求めています。制度の中身(0.5%の税率、年間売上5億ルピア超という対象範囲)は変えず、実施時期のみを遅らせる措置だと説明されています(ANTARA News、CNBC Indonesia)。理由として財務相のPurbaya Yudhi Sadewa氏は購買力の維持を挙げ、「まだ5.29%では十分に強くない。もっと速い成長を望んでいる。実際に改善が見られたら、数カ月後に改めて実施するかもしれない」と述べています。この5.29%は、統計庁(BPS)が8月5日に公表した第2四半期の実質GDP成長率(前年同期比)で、家計消費は5.06%増、GDPの53.32%を占めました(ANTARA News英語版)。なお8月5日夕方のANTARA英語版の報では新たな実施日は未定とされており、同日夜のDJP公示で11月1日が示された、という順序です。インドネシア向けに販売している場合、8月分の入金明細に控除が入っているかどうかと、返還処理の連絡が各プラットフォームから来ているかを確認しておくのが実務です
- 中国のライブコマースは2025年に約9,000億ドル。NIQがアジア太平洋への波及を指摘。 調査会社NIQが7月17日のリリースで要点を公表したレポート「The Commerce Revolution: Where East Meets West」(レポート本体は2026年4月付)によれば、中国のライブコマース市場は2025年に約9,000億ドル(NIQは「2025年の市場規模/流通総額(GMV)スケール」と注記)に達し、米国のEC市場規模に迫りました。アジア太平洋は2025年時点で世界のEC売上の約55%を占め、域内消費者の59%が既にソーシャルプラットフォーム経由で購入しているとしています。レポートが引用する市場予測では、中国のソーシャルコマース市場は現在の約5,000億ドルから2030年に1.8兆ドルへ拡大するとされています(NIQ公式リリース、Retail Asia)。数字の出どころはNIQ自身が区別しており、9,000億ドル・APAC約55%・1.8兆ドルはレポート内で引用した第三者の市場推計、59%というソーシャル経由購入の比率はNIQ自身の消費者調査(NIQ Consumer Outlook)の値です
先週号はこちら。木曜のトレンドウォッチでは、今週も需要側のバズ商品を深掘りします。
