今週は8.8ウィークです。8月8日(土)のダブルデーに、ASEAN10カ国横断の「ASEAN Online Sale Day」が8〜10日で重なり、マレーシアではムルデカ(独立記念日)商戦、シンガポールではナショナルデー(8月9日)商戦と一体で走ります。

そしてその直前に、需要側の解像度を上げるデータが2本出ました。ひとつはベトナムの上半期決算にあたるMetricのレポートで、EC4プラットフォームの合計売上が291.6兆ドン・前年同期比44.11%増という数字と一緒に、「どの価格帯が最も買われているか」「どんな店が売上を取っているか」という販路設計に直結する内訳が出ています。もうひとつはシンガポールのAdyen Index 2026で、「AIアシスタントで探して、ソーシャルで買う」という買い方の変化が世代別の客単価まで含めて数字になりました。

以下、ベトナム→シンガポール→ビューティー競争環境→セールカレンダー→短信の順に整理します。

ベトナム上半期は291.6兆ドン(+44%)。金額は伸びたが、点数は+14%にとどまる

ベトナムのEC分析プラットフォームMetricがまとめた2026年上半期のレポートによると、Shopee・TikTok Shop・Lazada・Tikiの4プラットフォーム合計売上は291.6兆ドン(約110億米ドル)で前年同期比44.11%増でした(Fibre2Fashion、7月29日報)。1日あたりに直すと約1兆6,110億ドンが4社の上で動いている計算です(VnEconomy)。

注目したいのは、金額と数量の伸び方の差です。

  • 売上金額: 291.6兆ドン、+44.11%
  • 販売点数: 21億8,600万点、+13.67%
  • 注文が発生したショップ数: 613,800店、+14.11%(CafeBizはこれを「1日あたり約420店が出店している」と表現しています。前年同期からの増加分約7万6,000店を上半期の日数で割ると、確かに同水準になります(CafeBiz))

金額の伸びが数量の伸びを30ポイント以上上回っており、平均単価が上がっていることを示唆します。月次では1月が+52%と最も高く、2月に+39%へ落ちたあと3月+47%、4月+38%、5月+43%、6月+44%と推移しました(Fibre2Fashion)。

売上金額に占める価格帯別の構成は以下の通りで、10万〜20万ドンの帯が引き続き最大です(VnEconomy)。

| 価格帯 | 売上構成比 | | -------------- | ---------- | | 10万〜20万ドン | 22.9% | | 20万〜35万ドン | 18.6% | | 100万ドン超 | 18.2% | | 10万ドン未満 | 18.1% |

カテゴリ別の売上上位は、美容が約49.5兆ドン女性ファッションが約40.4兆ドン家庭・生活用品が約37.7兆ドン。伸び率では食品・日用品が+60.96%で最も高く、数量ベースではスマートフォン・タブレットが+118.16%と倍増しました(VietnamNet)。

セラー視点: 売上構成比が最大の帯が10万〜20万ドンにあるという構図は、日本発の越境セラーにとっては素直に厳しい水準です。ただしその一方で100万ドン超の帯が18.2%を占めており、「安さで勝つ帯」と「単価を取りにいく帯」が両端に分かれた形になっています。金額の伸びが数量の伸びを大きく上回っている点も含め、下の帯で数を追う設計と上の帯で単価を取る設計のどちらに寄せるかは、あらためて検討する材料になりそうです。

モール店舗は全体の2.79%しかないのに、売上の34.2%を取っている

同じMetricのレポートで、販路設計の観点から最も目を引くのがこの数字です。Shopee・Lazada・TikTok Shopの3プラットフォームにおいて、モール(公式・ブランド認証枠)の店舗は店舗数全体の2.79%にすぎないのに、売上の34.2%を占めています。しかも前年同期と比べると、モール店舗の数自体は6%減っている一方で売上は54%増えており、1店あたりの平均売上は約63.8%増と算出されています(VietnamNetCafeBiz)。

一方で注文が発生したショップ数は全体で前年同期比+14.11%(約7万6,000店増、1日あたり約420店相当)と増え続けているので、店舗数は増えるのに売上は上位の公式枠に寄っていく、という二極化が同時に起きていることになります。

セラー視点: この数字はベトナム市場のもので、そのまま他国に当てはめられるものではありません。またモール枠は登録要件・手数料率ともに一般枠と異なるため、「モールに入れば売れる」という因果関係を読み取れるデータでもありません。それでも、買い手が「公式であること」を選別材料に使う度合いが上がっているという傾向自体は、商品ページの作り込み(正規品証明、ブランド表記、保証の明示)にどれだけ手をかけるかを考えるときの材料になります。ベトナムのプラットフォーム別シェアやカテゴリ構成は別記事で整理しています。

なお、Metricは第3四半期(7〜9月)の4プラットフォーム合計を146.3兆ドン(前四半期比+2.31%)、販売点数10億8,400万点(同+3.45%)と見込んでいます。季節要因として7月は夏休みの旅行関連、8月は新学期、9月は建国記念日(9月2日)関連の需要が挙げられています(VnEconomy)。

シンガポール: 72%がAIアシスタントで買い物、ソーシャルの客単価は世代で1.7倍差

決済大手Adyenが7月29日に公表した「Adyen Index 2026 シンガポール小売レポート」は、YouGovが2026年3〜4月に実施した調査に基づくものです。対象は18歳以上のシンガポール人消費者1,041人と、年商2,500万シンガポールドル以上の小売企業の上級管理職以上304人(Adyen)。

支出動向は、42%が1年前より支出を増やし、25%が減らしたという結果でした。増やした人の理由は生活費・金利の上昇が62%、ニーズや優先順位の変化が36%、経済の不確実性が20%です。世代差は明確で、支出を増やしたと答えたのはZ世代50%・ミレニアル51%に対し、X世代36%・ベビーブーマー29%でした(Retail Asia)。

ソーシャルメディア経由の買い物1回あたりの平均支出額は、世代でここまで開いています。

  • Z世代: S$104
  • ミレニアル: S$106
  • X世代: S$80
  • ベビーブーマー: S$62

そして買い物へのAI活用が、思っていたより進んでいます。シンガポール人の72%がAIアシスタントを買い物に使ったことがあると回答。Z世代では85%、ミレニアルでは80%に達します。使う理由は「オンラインのノイズを削ってくれる」72%、「早く着想が得られる」68%。また66%は「ユニークなブランドや買い物体験を見つけるのに使いたい」と回答しています(Adyen)。

小売側では、回答企業の99%が何らかの形でAIを使っていると答えた一方、95%が導入拡大の障壁を抱えていると回答。障壁の上位は「他の優先事項・リソース不足」39%、「既存システムとの統合」38%、「社内のAIスキル不足」35%でした(Adyen)。

決済まわりの数字も実務的です。59%が「決済時のエラーは小売事業者への印象を悪くする」と回答し、そのうち20%は「購入をやめ、今後その事業者を避ける」、15%は「競合に乗り換える」と答えています(Retail Asia)。

セラー視点: 前号で取り上げたDHL調査の「APACの4割がAIツールで買い物」という数字(週刊ダイジェスト7月27日号)に対し、シンガポール単独では72%という、より高い数値が別の調査からも出た形です。調査主体・対象・設問が異なるため単純比較はできませんが、少なくとも「AI経由で商品が発見される経路」を無視できる段階ではなくなりつつあります。商品名・素材・用途・サイズといった属性をテキストで明示的に書いておくこと自体は、AI経由でも人力検索でも損にならない基本作業です。

ベトナム首位カテゴリ「美容」の隣で、K-beautyが輸出を加速させている

上のベトナムのデータで売上首位だったのが美容カテゴリでした。そこで競合として存在感を増しているのが韓国コスメです。

Retail Asiaが7月31日に報じたところによると、投資運用会社Shikhara Investment Managementが7月に公表したホワイトペーパー(Morgan Stanley Researchのデータを引用)では、韓国の化粧品輸出は第1四半期に前年同期比19%増、5月には24%増と加速しています。地域別では欧州が第1四半期71%増・5月83%増と最も強く、米国は同40%増・32%増でした(Retail Asia)。

背景として同記事が挙げるのが、韓国のODM(相手先ブランド設計製造)エコシステムです。複数のインディーブランドが同じ工場と研究開発リソースを共有することで、数カ月単位で新製品を開発・投入できる体制ができている、というものです。戦略コンサルタントのShin Thant Aung氏は「既存ブランドが単に速く動くだけではこの差は埋まらない。仕組み自体を変える必要がある」と述べ、大手には「主力の大型商品は維持しつつ、共有製造を使った小さく速いローカルラインを別トラックで走らせ、地域チームに本社決裁を待たずに投入する権限を渡す」という二本立てを提案しています。

なお同記事では、Euromonitor Internationalのシニアコンサルタント、Amna Abbas氏が、韓国ブランドがスキンケア・ダーモコスメ・成分訴求型の領域でトレンドへの反応を速めつつ、EC・ソーシャルコマース・インフルエンサー連携でアジア外へ広がっていると指摘。McKinseyが6月に公表したレポートでは、世界のビューティー市場は2030年まで年5%成長し、東南アジア・中央アジアが最も成長の速い地域のひとつと予測されています。また消費者が価格よりも効果を重視する傾向が強まっており、視認できる結果と臨床的な裏付けを示せるブランドに有利だとしています(Retail Asia)。

セラー視点: 美容カテゴリは東南アジアで最も大きい売り場のひとつであると同時に、開発サイクルの速さを武器にする相手が正面にいる領域でもある、という認識で見ておくのが妥当です。新製品の投入速度で正面から競う土俵ではないと判断するなら、成分や効能の説明の丁寧さ、ロット管理と正規品証明といった信頼側の情報をどこまで載せられるかが、比較しやすい差になります。

セールカレンダー: 8.8ウィークとASEAN Online Sale Day(8月8〜10日)

8月8日(土)のダブルデーが今週末です。各国の建て付けが出そろってきました。

マレーシアでは、Shopeeが7月29日に「8.8 Merdeka Sale」を発表しました。8月9日までの期間で、当日配送サービス「Buy Today, Get Today」(正午までの注文で当日配送、午後3時までの注文で4時間以内配送)を前面に出し、日次の22%オフバウチャーに加え、88%オフバウチャーを8月7日20時と8月8日を通じて投下します。Shopee VIP会員向けには最大RM8,800相当のバウチャー、8月7日0時から最大50%オフの先行アクセス、20時から最大RM1,000相当のバウチャー投下が予定されています。Russell Taylors、Love Earth Organic、Montigoといったマレーシア国内ブランドを前面に置く、独立記念日に寄せた設計です(Media OutReach)。

シンガポールでは、Shopeeアプリのストア表記が「Shopee 8.8 National Day Sale」に切り替わっており、8月9日のナショナルデーと一体で走る構えです(Google Play)。

そして今年注目したいのが、ASEAN Online Sale Day(AOSD)2026が8月8〜10日に開催される点です。2020年にベトナムがASEAN議長国だった際に提案され、以降毎年実施されている域内横断の販促イベントで、2026年は議長国のフィリピンがホストを務めます。プログラムは「10カ国の各国内市場向け販促」と「ASEAN域内の越境取引向け販促」の二階建て構成で、ベトナムでは商工省の電子商取引・デジタル経済局が窓口となり、7月中旬から参加登録の受付が始まっていました(VietnamBizVTC News)。Shopeeマレーシアも上記リリースの中でAOSDへの参加を明記し、域内他国のセラー商品を回遊させる導線を作っています(Media OutReach)。

AOSDの参加登録は各国当局(ベトナムでは商工省)経由で、越境枠も「ASEAN域内諸国間の越境取引」と説明されています。日本発セラーの参加可否について出典に明示はありませんが、少なくとも8月8〜10日に域内で越境購買を促す施策が同時に走ることは、この3日間のトラフィックと配送量の読みに入れておきたいところです。

常設のセールカレンダーは今回の確認内容にあわせて更新し、8.8を「確定」に、AOSDを新規エントリとして追加しました。年内の残りの山(9.9、11.11、12.12ほか)と、それぞれの位置付けの根拠もカレンダー側に整理しています。

短信

  • インドネシア、8月1日からマーケットプレイス4社が売上0.5%を源泉徴収。 Tokopedia・Shopee・Lazada・Blibliの4社が、出品者の売上総額(VATと奢侈品税を除く)の0.5%を第22条所得税として徴収する仕組みが、1カ月の移行期間を経て8月1日付で発効しました。個人出品者は年間売上が5億ルピアを超えなければ対象外になりますが、そのためには各マーケットプレイスに対して「全事業の年間売上が5億ルピアを超えていない」旨の申告書(surat pernyataan)を提出する必要があります。売上の判定は店舗単位ではなく、全プラットフォームとオフラインを合算した事業全体で行われ、年度途中で5億ルピアを超えた場合は月末までに申告を更新し、翌月から徴収が始まります(Kompas)。国税総局長のBimo Wijayanto氏は「これは新税ではない。マーケットプレイスを通じた事業活動への所得税であり、変わるのは徴収方法だけだ」と説明しています。インドネシアEC協会(iDEA)のBudi Primawan会長は7月1日に指定通知を受け取ったとし、システム調整・業務プロセスのテスト・出品者への周知に与えられた期間は1カ月だと述べていました(ANTARA News)。制度の中身は7月30日のトレンドウォッチで整理しています
  • シンガポール、決済事業者向けの行動規範。 シンガポール・フィンテック協会(SFA)が決済サービス事業者向けの「Payments Industry Code of Conduct」を導入しました(報道は8月3日)。決済サービス法(2019年)下の法定通貨建てサービスが対象(デジタル決済トークンは対象外)で、遵守は任意・自己評価に基づく「Code Adherent」宣言方式です。中身は、取引実行前に元本・手数料・為替レート・マークアップ・最終金額を含む総コストを開示すること、取引途中で必須料金を追加しないこと、為替マークアップやスプレッドが未開示のまま「無料」「手数料ゼロ」と訴求しないこと、自社コストを除外して競合の手数料だけを強調しないこと、など。データ侵害時は評価から3暦日以内に本人と個人情報保護委員会へ通知することも求めています(Singapore Business Review)。越境セラーが直接の名宛人になる規範ではありませんが、シンガポール向けの決済・送金サービスを選ぶ際の比較軸として使えます
  • Temu、EUから調査非協力で異議告知。 欧州委員会は7月31日、Temuの親会社PDD Holdingsとその子会社WhaleCo Technologyに対し、異議告知書(Statement of Grounds)を送付したと発表しました。2025年12月2〜5日にアイルランド・ダブリンのWhaleCo拠点で実施した抜き打ち立入検査において、EU域内事業の組織・運営体制、使用しているITツールとシステム、事業に関する特定の帳簿・記録といった基本的な情報提供要求に応じず、積極的協力義務(外国補助金規則(FSR)第14条)に違反した疑いがあるとする暫定的判断です。この検査自体は、Temuが域内市場を歪める外国補助金を受けていないかを調べる別の調査の証拠収集を目的としたもので、そちらの調査は並行して継続しています。異議告知は結論を予断するものではなく、Temuには反論の機会があります。違反が確定した場合の制裁金は前年度の総売上高の1%が上限です(欧州委員会)。Temu側は「委員会の主張には同意しない」「歪曲的な補助金は受け取っていない」「検査中の要求にはすべて完全に協力・対応した」と反論し、自社事業から十分なキャッシュフローを生んでいると説明しています(Inside Retail Asia)。7月27日号のAliExpressへのDSA制裁金に続き、中国系プラットフォームへの欧州当局の圧力が続いています

先週号はこちら。木曜のトレンドウォッチでは、今週も需要側のバズ商品を深掘りします。