先週号では台湾の8月小売とシンガポールの8月物価を取り上げました。今週はその続きにあたる数字が出ています。シンガポールは8月の小売売上高を10月5日に公表し、ベトナムは7〜9月期の統計を10月3日に出しました。どちらも全体の伸びより、化粧品・トイレタリーやネット通販といった区分の伸びが目立つ内容です。一方、フィリピンとインドネシアの日用品では「小さく・安く」買う動きが続いています。そこに年末商戦の入り口となる調査や講演が重なりました。まず各国で何が売れているかを見て、次に10.10の日程、最後に運用上の連絡を並べます。
シンガポール8月小売: 全体は+0.7%、化粧品・トイレタリーは+11.2%
シンガポール統計局(SingStat)が10月5日に公表した8月の小売売上高は前年同月比+0.7%で、7月の+1.3%から鈍りました。押し下げたのは自動車・部品(-4.6%)で、これを除くと+1.6%(7月+1.3%)です。売上高は45億シンガポールドルと推計されています(SingStat)。
業種別では、化粧品・トイレタリー・医療品が+11.2%(7月+4.5%)、パソコン・通信機器が+10.7%でした。統計局は要因として、化粧品・トイレタリーとスマートフォンの売上増を挙げています。化粧品・トイレタリー・医療品は季節調整済みの前月比でも+8.4%です。娯楽用品は+4.3%(7月+14.3%)、衣料・履物は+0.7%、百貨店とスーパーはともに+1.6%でした。逆に時計・宝飾は-2.7%で、7月の+10.3%から反転しています。
ネット経由の売上は小売全体の15.7%(7月15.2%)を占め、自動車を除くと18.2%です。業種別では、パソコン・通信機器が63.7%、家具・家庭用品が34.7%、スーパーが12.3%でした。外食は-1.6%で、カフェ(-5.3%)とフードコート(-4.8%)が落ち込み、ファストフードは+7.8%です。
1つ注意があります。この指数は金額ベース(名目)で、統計局も「価格と数量の両方の変化を含む」と説明しています。先週号で触れた8月の物価では、パーソナルケア製品や衣料の値上がりが挙がっていました。そこで統計局の数量ベースの指数(物価変動を除いたもの)で計算すると、8月の前年同月比は化粧品・トイレタリー・医療品が**+7.7%、小売全体は-2.7%**でした(SingStat Table Builder)。化粧品は数量でも伸びていますが、小売全体は数量で見ると前年を下回っています。
ベトナム7〜9月期: 9月の小売は+14.1%、物価は+5.08%
ベトナム財務省統計局が10月3日に公表した報告(政府ポータルに全文転載)によると、9月の小売売上高(サービス含む)は690.6兆ドンで、前月比+1.7%、前年同月比+14.1%でした。7〜9月期は+14.5%、1〜9月の累計は5,925.7兆ドンで+13.4%です。ただし価格要因を除くと累計の伸びは+7.8%(2025年は+7.2%)にとどまります(ベトナム政府ポータル)。名目と実質の差が大きいのは、物価が高いためです。9月の消費者物価は前年同月比+5.08%、1〜9月の平均は+4.52%でした(同報告)。
1〜9月の小売のうち物販は4,463.6兆ドン(+12.8%)で、品目別の伸びは貴金属・宝石の+22.0%が目立ちます(Báo Công Thương)。なお統計局の報告では、金価格指数の1〜9月の平均が前年同期比+42.67%でした。ネット通販については、商工省系のBáo Công Thươngが統計局の公表前の9月30日に、1〜9月の小売ECは+19.5%と伝えています(Báo Công Thương)。同じ記事は小売全体を「+13.1〜13.6%」という推計の幅で示しており、ECの数字も推計とみられます。何の売上を集計したかの定義は書かれていません。
家計の側では、7〜9月期の平均月収が920万ドンで前年同期より82万3,800ドン増えました。9月の外国人訪問者は177万人(前年同月比+16.1%)、1〜9月の累計は1,770万人です(政府ポータルの同報告)。
フィリピン・インドネシア: 日用品は「小さく・安く」、インドネシアの美容は2桁成長
購買パネル調査のWorldpanelによる四半期レポート「Asia Pulse Q2 2026」を、Retail Asiaが国別に報じています。レポート本体は確認できていないため、数字は報道によるものです。データは4〜6月期のものです。
フィリピンの日用消費財(FMCG)への支出は、4〜6月期に前年同期比**-0.8%**と減少に転じました。直近1年間の移動年計では+1.6%の伸びでした(BusinessMirror、8月17日の報道)。Retail Asiaが伝える+1.6%は、この移動年計の値と一致します。物価高と消費者心理の弱さから、買う品目の数と量を減らす動きが続いています。容量の小さいパックや安いブランドへの切り替えも進んでいます。販売チャネル別では、町の小規模雑貨店サリサリストアが市場全体の40%を占め(2025年4〜6月期は39%)、ハイパーマーケット・スーパーは26%で横ばいです(Retail Asia)。
インドネシアはFMCGの数量が4〜6月期も減りました。中の上の所得層が支出先を絞り込んでいることが背景とされています。食品・飲料の数量減の主因は飲料と乳製品で、ホームケアも弱く、ベビー用品は安い商品へ移っています。その中で美容だけは伸びが鈍りながらも2桁成長を続け、高価格帯への移行の余地もあるとしています(Retail Asia)。シンガポールの化粧品と同じく、美容が全体の流れと違う動きをしている点は共通です。
物価の動きは国で違います。インドネシア中央統計局(BPS)が10月1日に公表した9月の消費者物価は前年同月比+3.28%で、8月の+3.19%から上がりました。前月比は+0.30%です(BPS 9月分、BPS 8月分)。押し上げたのは唐辛子や鶏肉などの食品です(CNN Indonesia)。フィリピンは8月まで4か月続けて物価の伸びが鈍っていましたが、9月は加速を見込む予測が多く出ています。9月分は10月6日に公表される予定で、The Philippine Starがまとめたエコノミスト13人の予測の中央値は6.7%(8月は6.1%)です(The Philippine Star)。
年末商戦の入り口: シンガポールは7割がネット中心、商品探しは動画とAIへ
広告計測のIntegral Ad Science(IAS)が9月にシンガポールの消費者509人に聞いた調査では、年末の買い物の大半または全部をネットで済ませる予定の人は**70%**で、2025年の76%から下がりました。年末の予算を維持または増やす人は81%です。利用を増やす予定のチャネルは、SNSが55%(前年61%)、EC・小売サイトが55%(同64%)、動画が40%(同47%)と、いずれも前年の数字を下回りました。AIを使った買い物に前向きな人も67%(同74%)でした。ただし前年の調査は2025年7月に500人を対象にしたもので、IASは前年との比較を「方向性を示すもの」としています(IAS)。値引き・販促が購入判断の主な要因だと答えた人は73%でした(Retail Asia)。
売る側の数字も出ています。TikTok Shopシンガポールの担当者は業界イベント「Retail Asia Summit 2026」で、同国での短尺動画経由のGMVが前年比でほぼ倍、出品者は約8万(+125%超)、ライブ配信の視聴は+150%超、ライブコマースの売上は+70%超と説明しました。伸びたカテゴリーはファッション、美容・パーソナルケア、スマートフォン・家電、日用品、食品と幅広いとしています(Retail Asia)。いずれも前年比ですが、集計の対象期間は書かれていません。
AIについて、Bain & Companyは同じイベントで、東南アジアの買い物客の約8割がすでに商品の推薦、販促探し、比較などにAIを使っていると述べました。一方で、購入の完了までAIに任せることには「信頼のギャップ」があるとしています。「約8割」の根拠となる調査の対象や時期は、記事には書かれていません(Retail Asia)。プラットフォーム側では、LazadaがAIチャット「LazzieChat」経由のGMVが9.9で約220万米ドルと、6.6より38%増えたと公表しました(Lazada Group)。
シンガポールのネットスーパーでは、Lazada傘下RedMartの最短30分配送「RedMart Now」の注文数が、2月の開始時から6倍になりました。10月1日に東部向けの配送拠点を開き、東部も対象に加えています。注文では生鮮・乳製品・冷蔵品の比率が高く、まとめ買いの合間の買い足しに使われているとしています(Retail Asia)。
セールカレンダー: 10.10はフィリピンも10月1日に開幕、タイは菜食祭
10.10の会期は、Shopeeの3か国で公式に確認できています。フィリピンは公式アプリのストア説明文に「10.10 Sale (Oct 1-11)」とあり(Shopee Philippines・App Store)、公式ページでは期間中に100万ペソが当たる企画を告知しています(Shopee Philippines)。マレーシアは9月26日〜10月11日(Shopeeマレーシア)、シンガポールは10月1〜17日です(Shopee Singapore)。Lazadaは公式アプリで「10.10 Sale」をうたっていますが(Lazada・App Store)、会期を示す公式告知は10月5日時点でどの国も確認できていません。シンガポールでは、Amazonの「Prime Big Deal Days」が10月6〜8日に開かれます(Amazonシンガポール)。
タイでは10月10〜18日が菜食祭(キンジェー)の期間です。タイ商工会議所大学(UTCC)は、洪水で葉物野菜の価格が上がり始めており、菜食祭の期間を通じて監視が必要だとしています(The Nation Thailand)。常設のセールカレンダーにフィリピンの会期と菜食祭を加えました。
短信
- バンコク洪水で3社が出荷期限を延長: Shopee・TikTok Shop・Lazadaは9月下旬の洪水を受けて出荷期限を延ばし、期限内の出荷は遅延扱いにしないとしました。Shopeeは被災地域の通常配送を10月1日まで(大型品は10月2日)、TikTok Shopは9月24〜29日の注文を全国で9月28日または30日まで、Lazadaは9月24〜30日の注文を全国で10月1日23時59分まで(自社配送は10月8日まで)延長しています。3社とも、支障が続く出品者には休暇モードの利用を勧めています(Bangkok Post)。延長期限は、Lazadaの自社配送(10月8日)を除いて10月2日までにすべて終わっています。UTCCは9月25〜29日の5日間の経済損失を122億8,300万バーツ(うちバンコク70億1,400万バーツ)と試算しており、商業施設や外食の支出減、主要道路の冠水による小売店舗への配送の乱れを挙げています(The Nation Thailand)
- Lazada、広告の「ROAS保護」を10月12日から: Lazadaの広告「Mega Sales Accelerator」で、キャンペーンの成果がシステムの定めるROAS(広告費用対効果)の基準を下回った場合、広告費の一部を広告用バウチャーで返す仕組みが始まります。上限は広告費の80%です。予告期間の前にキャンペーンを作る、自動入札のみ、途中で止めない、最低注文数(キャンペーン日数×5件)などが条件で、対象国は国によって異なるとしています(Lazada Sponsored Solutions)
- コクヨ、ベトナムの文具大手の子会社化へ前進: コクヨは、ベトナムの文具大手ティエンロン・グループ(TLG)の株式取得のため、シンガポールの特別目的会社に280億円を増資すると9月30日に開示しました。増資はベトナム当局の認可取得が前提です(コクヨ、VIETJO)。最大65.01%の取得をめざしており、持株会社株式の取得はベトナム国家競争委員会の承認が9月9日にずれ込んだため遅れていました。株式公開買付けはその完了後になります(Inside Retail Asia)。9.9では、Shopee Japanが集計した日本の越境セラーの文房具の注文数が前年比83%増でした(先週号)
