9.9が終わった週に、家計の統計が3本出そろいました。公表はベトナムが9月3日、日本が9月4日、シンガポールが9月7日です。シンガポールの7月の小売売上高は前年同月比+1.5%(6月は+4.0%)、ベトナムの8月は+14.9%、そして日本の7月の実質消費支出は-3.6%で8か月連続のマイナスでした。同じ「消費」でも、方向も速度もそろっていません。今週はここを起点に、減速した市場の中で何が伸びたのか、そして「どの国で試すか」を決めるコストがどう下がっているかを整理します。
シンガポールの7月は、全体が減速して山と谷が深くなった
シンガポール統計局のプレスリリースによると、7月の小売売上高は現在価格ベースで前年同月比+1.5%でした。6月の+4.0%から明確に減速しています。総額はS$44億、自動車・部品類を除くとS$37億で、除いたベースでも+1.5%(6月は+4.1%)です(シンガポール統計局)。
ただし内訳は一様ではありません。統計局が名指しした伸びた側はレジャー用品が+13.9%(スポーツ用品が牽引)、時計・宝飾が+11.1%(宝飾が牽引)、コンピュータ・通信機器が+5.1%。減った側は食品・酒が-5.1%、百貨店が-3.5%です(シンガポール統計局、Retail Asia)。リリース本文が名指ししていない区分も、同じプレスリリースの業種別表(表1)には載っています。化粧品・トイレタリー・医療用品が+4.5%、衣料・履物が+2.3%、家具・家庭用品が+1.3%。減った側の主なものはスーパー・ハイパーマーケットが-2.1%、ミニマート・コンビニが-1.5%、光学用品・書籍が-2.2%、ガソリンスタンドが-1.1%です。とくにスーパーは6月の+7.2%から符号が反転しています(シンガポール統計局、AsiaOne)。生活必需品まわりが縮み、裁量的な支出の一部が伸びている、という珍しい形になっています。
出品者として見ておきたいのはオンライン比率です。7月の総小売売上高に占めるオンライン取引は15.4%で、6月の16.4%から下がりました。自動車・部品類を除いたベースだと18.3%になります。同じ「オンライン比率」でも分母が2つある数字なので、資料で見かけたときはどちらのベースか確認する必要があります。業種別のオンライン比率はコンピュータ・通信機器が62.9%、家具・家庭用品が35.6%、スーパー・ハイパーマーケットが11.8%と、もともとオンラインに寄っている棚とそうでない棚の差がはっきりしています。飲食サービスは売上が-1.9%(約S$16億)で、こちらのオンライン比率は20.9%(6月は20.4%)でした(シンガポール統計局)。
伸びた側が伸びた理由には観光が絡んでいます。UOBは、7月の弱さが訪問者数の前月比+17.6%という増加にもかかわらず生じたものだと指摘したうえで(シンガポール居住者の出国航空便は10%減)、レジャー用品、百貨店、時計・宝飾、衣料・履物といった観光に反応しやすい区分は一定の下支えを受けた、としています(Retail Asia)。季節調整済みの前月比で見ると、レジャー用品+7.5%、百貨店+4.6%、スーパー・ハイパーマーケット+4.3%が伸び、ガソリンスタンドが-7.2%、コンピュータ・通信機器が-4.7%と落ちています(シンガポール統計局)。前年同月比と前月比で符号が逆になる区分があるので、どちらの物差しの話かを混ぜないほうが安全です。
先行きについては、UOBが「軟化した労働市場を背景にした消費者心理の慎重さを反映したものだろう」とコメントしています。第2四半期の人員整理は4,500人で第1四半期の3,830人から増加、シンガポール全国雇用者連盟(SNEF)の調査では54%の雇用主が2027年に人員を増やす計画がなく、51%が賃金の抑制・凍結を予定している(2026年は48%)とのことです。RHBは通年の小売売上高予想を+3%に据え置きつつ、下半期は前年比+2%程度になると見ています。同社は「業績の乖離は家計財務の悪化ではなく、消費行動の変化を反映したもの」とし、必需的な支出は底堅い一方で裁量的なカテゴリは景況感・観光・所得の影響を受けやすい、と分けて説明しています(Retail Asia)。
ベトナムの8月は+14.9%、伸びた顔ぶれは建材・宝飾・食料品
同じ週に読むと対照的なのがベトナムです。統計局(財政省)が9月3日に公表した数字では、8月の小売・サービス売上高は679兆8,000億ドンで前月比+1.6%、前年同月比+14.9%。1〜8月の累計は5,235兆5,000億ドンで前年同期比+13.3%、価格要因を除いた実質でも+7.6%(前年同期は+7.5%)です。うち物販は3,947兆6,000億ドンで全体の75.4%、+12.8%でした(Nhân Dân)。
8月の品目別(前年同月比)は、ガソリン・軽油以外の燃料が+25.9%、木材・建材が+24.8%、宝石・貴金属が+19.2%、食料品が+12.9%、自動車・二輪の修理が+12.3%、衣料が+11.9%、家庭用品・家庭用設備が+9.2%、自動車以外の移動手段(部品含む)が+4.3%。唯一減ったのが自動車で-1.8%です。サービス側は宿泊・飲食が+21.5%、旅行が+19.2%でした。
地域差も出ています。1〜8月の物販の伸びを地域別に見ると、ダナンが+14.2%、クアンニンが+13.9%、カントーとハイフォンが揃って+13.1%で、ハノイ(+12.8%)とホーチミン(+12.2%)を上回りました。人口規模の大きい2都市より、中規模都市のほうが伸び率で先行している形です。
シンガポールと並べると、両市場で共通して強いのが宝飾・貴金属です(シンガポール+11.1%、ベトナム+19.2%)。一方で食品はシンガポールが-5.1%、ベトナムが+12.9%と逆を向いています。「東南アジアの消費」とひとまとめにした議論が、この1週間の数字だけでも成り立たないことが分かります。
日本の家計は8か月連続マイナス
売る側の足元も同じ週に出ています。総務省統計局の家計調査(9月4日公表)によると、2026年7月の二人以上の世帯の消費支出は1世帯当たり301,245円で、前年同月比は実質-3.6%、名目-1.5%。季節調整値の前月比は+0.5%です(総務省統計局)。実質での減少は8か月連続で、日本経済新聞はこれを「節約志向続く」と伝えています(日本経済新聞)。食料は実質-1.3%で2か月連続の減少(総務省統計局)、光熱・水道は-9.2%でした(Retail Asia)。なお統計局のこのページは月次で内容が差し替わるため、本稿の数値はいずれも2026年9月4日公表分です。
この数字そのものは越境ECの売上を直接動かすものではありません。ただ、国内の棚が縮んでいる期間に域外の棚を持っておく、という判断の背景には入ってきます。
「まず試す」コストが下がっている: LazadaがTmallの棚をそのまま映す仕組み
Momentum Worksが9月10日に、東南アジアの市場テストが以前より安くなっているという整理を出しています。中心にあるのはLazadaの「LazTmall」で、既存のTmallストアをLazada側にミラーする、つまりストアを作り直さずに映す形で出せる仕組みです。翻訳、マーケティング、フルフィルメント、アフターサービスの多くをプラットフォーム側が担うため、最初から現地化を完了させなくても出せる、という説明になっています。同記事はLazadaの説明として、約10,000のTmallブランドがこの方式を採り、2026年6月時点で月間GMVは4億元を超えたとしています(Momentum Works)。
事例として挙がっているのがアウトドア用品のMobi Gardenで、5市場を同時にテストした結果、ベトナムが域内の月間GMVの60%超を占めた時期があり、ある大型キャンペーンではアフィリエイト経由のトラフィックが70%超になったとされています(いずれも一時点の数字で、恒常的な水準としては書かれていません)。宝飾の周大福(Chow Tai Fook)は実店舗網の外側へ届けるためにECを使い、現地色のあるコレクションやモバイルゲーム「Mobile Legends: Bang Bang」との連携を試した、という書き方です。Lazadaは域内6か国に中間層以上が約1.7億人いると見積もっており、同時に価格に敏感な層も厚いため、国と属性ごとに商品適合を確かめる必要がある、と続きます。
注意点として、これらの数字はブランド数・GMV・Mobi Gardenの比率のいずれもLazadaおよびブランド側の数字をMomentum Worksが伝えたもので、独立した集計ではありません。GMVの定義や「採用した10,000ブランド」の数え方の説明も記事にはありません。ただ、越境の出品者にとって実務的に効くのは数字よりも構造のほうです。1つの大きな参入判断を下すかわりに、小さなテストを順番に回して当たりを見つける——記事はフィリピンでポータブル電源が伸びた例を、事前調査ではなく実際の消費者との接触から見つかったものとして挙げています(記事自身が「昼食の席で聞いた逸話にすぎない」と断っている話です)。日本の出品者にとっても、この記事の枠組み自体は「どの国から始めるか」の議論を組み替える材料になります。
シンガポールの「ファストファッションを減らした」は52%、「中古を買う」は25%
もう1本、シンガポールの消費行動の調査が出ています。SinglifeとシンガポールNUSのSustainable and Green Finance Institute(SGFIN)によるもので、シンガポール人と永住者1,500人の全国代表サンプルを対象にしています。ここで重要なのは調査期間が2025年9月12日〜10月17日であることで、公表は今週ですが調査そのものは1年近く前のものです(Singapore Business Review)。
調査の枠組みは、認知(awareness)・知識(knowledge)・当事者意識(ownership)・行動(action)の4段階で、行動を説明する寄与は当事者意識が74%、認知が18%、知識が8%とされています。4つの領域別では「気候変動への行動」が70で最も高く、「責任ある投資」が43で最も低い結果でした。
行動の内訳が実務的です。「ファストファッションを買う量を減らした」が52%、「エコラベル付きの商品を買う」が48%と高い一方、コストや生活の変更を伴う行動は落ちます。「中古の衣料をより多く買う」は25%、「割高でもオーガニック食品を買う」は24%、電気自動車の採用は16%でした。25項目のうち平均して実行しているのは10項目、全体スコアは100点満点で56です。ただしこの56は、実施済みの行動だけでなく「今後12か月以内に実施する意向」も合わせた合成スコアである点に注意が必要です。
同じ「サステナビリティに関心がある」でも、減らすほうの行動(52%)と、買い替えるほうの行動(24〜25%)で倍以上の開きがある。表示や訴求を設計する際に、どちら側の行動を前提にしているかで結果が変わってきます。
セールカレンダー: 9.9は終了、ただし閉幕日は国・プラットフォームで揃っていない
9.9は終わりました。ただし閉幕日は国とプラットフォームで揃っていません。Lazadaのマレーシア・フィリピン・タイは3か国とも9月8日20時が実質のスタートで、9月11日に終了。Shopee側は9月1日号で一次ソースを確認したとおりインドネシアが9月9日、マレーシアが9月10日までで、こちらは日付が分かれています。マレーシアでは9月10日付で「9.9 Ends Tomorrow」という告知が出ました(Malay Mail)。会期の詳細は先週号で整理したとおりです。
台湾のShopeeは会期の取り方が域内と少し違いました。8月26日から9月11日までの約2週間半で、9月1日10時をVIP Dayに設定。店舗受取(蝦皮店到店)の送料無料のしきい値を、9月1日からNT$149、9月9〜11日はNT$99へと段階的に下げる作りです(配送全般の送料無料ではありません)。幸運番号は8月26日〜9月7日の期間、毎日ログインすると1つずつ取得でき、9月8日22時のライブ配信で2つが抽選。2つとも的中した人に9月9日正午からNT$1,000以上でNT$999引きのクーポンが配られる設計でした(T客邦)。
各プラットフォームによる2026年の9.9の実績値は、本稿執筆時点でいずれの国でも公表を確認できていません。確認でき次第、常設のセールカレンダーに反映します。次の暦の山は9月25日の中秋節で、ベトナムの月餅商戦とその周辺の動きは9月10日のトレンドウォッチで扱っています。プラットフォーム主導の次の山は10.10です。
短信
- TikTok Shopシンガポールが9月1日から手数料を改定: セラーセンターの公式ヘルプによると、2026年9月1日0時(GMT+8)から販売手数料が調整されています。カテゴリ別の料率はPDFで別掲ですが、表に載らないカテゴリの既定料率は標準セラーが9.810%、BXPセラーが7.085%(いずれも税込)。予約販売品にかかる1.09%の予約サービス料は今回の改定とは別で、2025年12月22日からの制度です。ページの更新日は2026年8月17日です(TikTok Shop Singapore)
- インドがEC規則を改正、「値下げ前価格」を30日間の最安値と定義: インド消費者省が消費者保護(EC)規則2020を改正しました。検索結果を誤認させる形で操作することの禁止、スポンサー表示の明示、ダークパターン指針の順守と年次自己監査・適合証明の掲示、輸入品についての輸入者情報と原産国の開示などが入っています。値下げ表示については、値下げ前の価格を「告知前30日間で提示された最低価格」と定義したうえで両方を表示させる、という書き方です。2025年の全国消費者ヘルプラインへの苦情177万件のうち約29%(511,196件)がEC関連だったとされています。改正規則の施行は2027年1月1日で、いまはまだ適用前です。インドは東南アジアの市場ではありませんが、価格表示とスポンサー枠の扱いは各国で同じ方向に動いている論点です(Retail Asia)
- 中国最大のコンビニがベトナムのガソリンスタンド網で実験: 中国最大のコンビニチェーン美宜佳(海外ブランド名Ohmee)が、ベトナム最大の燃料小売Petrolimex(全国約5,500拠点)と組み、給油所内に置く小型フォーマット「Ohmee Express」を9月5日にハノイで2店試験開業しました。Ohmeeによると、同社は既にベトナム北部で約35店を運営しています。ただしPetrolimexの5,500拠点のうち直営は半分未満で、面積や立地が合う場所も限られる、と記事は釘を刺しています。タイやマレーシアと違いベトナムでは給油所とコンビニが別々に育ってきた、という対比が置かれています(Momentum Works)
- タイのCentral Retailがベトナムで2028年までに最大37店: Go!ハイパーマーケット10〜12店とMini Go!スーパー23〜25店を、主要都市と地方都市の両方に開く計画です。進出から15年弱で490億バーツ(約15億米ドル)超を投資し、現在は26省で300店超・小売面積130万平方メートル。ロイヤルティプログラム「The 1 Vietnam」は開始1年弱で会員740万人を超えたとしています。販売商品の9割超を現地調達し、国内サプライヤーは2,000社超とのことです(Inside Retail Asia)
