先週は各国の家計統計が3本並んだ週でした。今週はその続きとして、消費者「心理」の指標が上向いた国が2つ出ています。インドネシアの消費者信頼感指数は4か月ぶりに上昇、タイは3か月連続で上がって6か月ぶりの高水準です。ところが同じ週に出た9.9の実績と、両国政府が10月に向けて動かしている制度を並べると、話は単純な回復にはなりません。上がっている数字と、まだ上がっていない数字を分けて置きます。
9.9の実績が出た: Lazadaは「100ドル超の注文が6割」
先週号の時点では9.9の実績値をどの国でも確認できていませんでしたが、今週になって2社から発表が出ました。
Lazadaは9月17日付のリリースで、6.6キャンペーンとの比較を中心に数字を公開しています。GMVが100万米ドル以上に達したブランドの数は6.6比で8.0%増、10万米ドル・50万米ドルの水準に届いたブランドも増えたとしています(後者2つの増加率は明示されていません)。目を引くのは単価で、100米ドルを超える注文がキャンペーン全体のGMVの約6割を占め、プラットフォーム平均の注文単価は前年比で約5割上がったとしています。国別ではシンガポールが100米ドル超の注文でGMVの約75%と最も高く、タイとマレーシアが約60%で続きます。LazMall(ブランド公式店)はキャンペーン外の時期と比べてGMVが7倍超、域内の注文の49%がLazMall経由で、シンガポールは78%、ベトナムは76%でした。アフィリエイト経由のGMV寄与は6.6比で15%以上増え、東南アジアGMVの約3割に達しています(Lazada)。
ただしこれらはすべてLazada自身の集計で、しかも「Mega Brands Sale」というブランド訴求型のキャンペーンの期間内の数字です。ブランド公式店とアフィリエイトを前面に出した設計のイベントで、LazMall比率と高単価比率が高く出るのは設計どおりとも言えます。絶対額(GMV総額・注文総数)は公開されていません。「東南アジアの消費者の単価が5割上がった」という読み方はできない数字です。
Shopeeフィリピンの発表はやや別の切り口でした。同社の倉庫出荷サービスFulfilled by Shopee(FBS)経由の注文が前年比2.5倍、FBSの配送はマニラ首都圏で1〜2日、ビサヤ・ミンダナオで3〜5営業日(非FBSの地方は7〜10営業日)としています。コンテンツ側では、アクティブなアフィリエイトが前年から倍以上、Shopee VideoとDramaの視聴時間が前年比79%増、ライブ配信の視聴者は370万人で通常日の平均比73%増。GMVや注文総数、カテゴリ別の数字は出ていません(Gadget Pilipinas)。両社とも、公開したのは「伸び率」と「比率」だけで、規模そのものは出していません。
インドネシアの消費者信頼感は4か月ぶりに上昇。ただし支出はまだ
インドネシア中央銀行(BI)の消費者調査によると、8月の消費者信頼感指数(CCI)は118.5で、7月の116.8から上昇しました。上昇は4か月ぶりです。内訳は現況指数(CECI)が107.9→109.4、期待指数(CEI)が125.7→127.6。細目では雇用可能性指数が101.1→104.1、耐久財購入指数が104.1→106.1と動き、現在所得指数は118.0で横ばいでした。BIは改善の主因として、雇用機会に対する見方の改善と耐久財の購入計画を挙げています(The Jakarta Post)。
注意したいのは、同じ記事が小売支出の回復は緩やかにとどまっていると書いている点です。100を上回るインドネシアのCCIは「楽観が悲観を上回っている」ことを示す指数であって、支出額そのものではありません。心理指標と実支出のあいだに差がある状態、というのがこの8月の姿です。
この差は、後述するインドネシアの税制の話と直結します。この徴収制度は8月1日に施行された直後、当時の財務相が購買力への影響を理由に停止し、11月1日に延期されていました。その購買力の指標が上向いた月の直後に、実施が10月1日へ前倒しされた、という順序になります。
タイは6か月ぶり高水準。ただし1,615億バーツが流れた後の数字
タイ商工会議所大学(UTCC)の消費者信頼感指数は、8月に53.2となりました。7月の51.8から上昇し、3か月連続の上昇で6か月ぶりの高水準です。内訳は経済全体への信頼が46.6、雇用機会が50.9、将来所得が62.1。UTCCは、政府の共同負担型の補助制度、政策金利の据え置き、主要農産物価格の上昇が購買力を支えたとしています(The Nation Thailand)。
その補助制度の規模が今週明らかになりました。タイ政府副報道官の発表によると、「Thais Help Thais Plus(タイ・チュアイ・タイ・プラス)」の累計支出額は9月18日時点で1,615億6,000万バーツ。うち政府負担が929億バーツ、消費者負担が686億5,000万バーツです。利用対象者は2,604万人、登録加盟店は119万店。支出先の内訳は一般店舗が1,553億4,000万バーツ、フードデリバリーが62億2,000万バーツでした。制度は対象支出の60%を政府が負担し、1人1日200バーツ・月1,000バーツを上限とする設計で、繰り越しはできません(The Nation Thailand)。政府負担929億対消費者負担686億という実績の比率も、おおむねこの6対4に沿っています。
つまりタイの8月の信頼感は、この規模の補助が流れている最中に測られたものです。UTCC学長のThanavath Phonvichai氏は「9月と10月はタイ経済にとって重要な転換点になり、回復が続くか再び勢いを失うかを決める」と述べ、消費者はまだ回復が定着したとは見ておらず、政情の不安定さと1バレル95ドル近い原油価格が下振れ要因だとしています(The Nation Thailand)。
制度そのものは9月30日で現行分が終了します。財務省は2か月の延長を閣議に諮る方針で、審議は本稿公開日と同じ9月22日です。財源は第1期の残余と救済枠の残り約500億バーツを充てるとされ、財務相のEkniti Nitithanprapas氏は「エネルギー移行向けの資金を振り替えるものではない」としています(Thai PBS World)。報じられている延長案の対象期間は11〜12月で、負担割合60対40はPaotangアプリ経由のまま据え置き。対象者は本体が2,600万人、福祉カードが950万人、不服申立中が約500万人で計約4,000万人規模とされています(Kaohoon International)。9月30日に終わる現行分と11月開始の延長案のあいだにある10月の扱いは、本稿執筆時点で確認できた報道からは分かりません。閣議の結果とあわせて次号で追います。
タイ向けに売っているなら、11.11と12.12がこの延長の対象期間と重なる可能性がある、という点は日程表に書き留めておく価値があります。ただし補助対象は国内の登録加盟店での支出で、越境の注文がそのまま対象になるわけではありません。効いてくるのは家計全体の余力を通じた間接的な経路です。
マレーシアの7月: 小売は+6.4%、オンライン指数は+7.4%に減速
マレーシア統計局(DOSM)が9月11日に公表した7月の卸売・小売取引は、総額1,705億リンギで前年同月比+9.0%でした。内訳は卸売が784億リンギ(+11.7%)、小売が713億リンギ(+6.4%)、自動車が208億リンギ(+7.9%)。3部門合計で前年から141億リンギ増えています。伸びを牽引したのは卸売のうち「その他専門卸売」で+22.8%の317億リンギ、石油製品と液化ガスが主因です。小売側では非専門店(スーパーマーケット・百貨店)が+7.2%の276億リンギでした(The Sun、The Star)。
出品者として見ておきたいのはオンライン小売売上指数です。7月は前年同月比+7.4%で、6月の+9.0%から減速しました。小売全体(+6.4%)より速いので、オンライン比率そのものは上がり続けている計算になりますが、その差は1ポイント程度まで縮んでいます。先週見たシンガポールの7月(小売+1.5%、オンライン比率は6月の16.4%から15.4%へ低下)と並べると、マレー半島の2市場ではオンラインの伸び「率」の鈍化が同じ月に出ている形です。ベトナムの8月(+14.9%)とは明確に別の局面にあります。
ベトナムの月餅は、安い方が混み合ってプレミアムが戻っていない
9月25日の中秋節を前に、ベトナムの月餅市場の様子が出ています。VietnamPlusによると、市場規模は約4兆8,300億ドン(約1億8,300万米ドル)で、年4〜4.5%の成長。ハノイとホーチミン市では原材料・人件費・包装費の上昇を受けて、1個あたりの価格が前年より5,000〜7,000ドン上がりました(VietnamPlus)。
売れ方が割れています。大手ブランドが量販の販売数量の約7割を握り、手ごろな価格帯の競争が激しくなる一方で、プレミアム商品は消費者の支出が慎重なままで勢いを取り戻せていない、というのが記事の整理です。ただし例外があって、SNS発で話題になった多黄身のスノースキン月餅は1個25万〜30万ドン(約10〜12米ドル)で売れている、とされています。オンラインの買い手は購入前の価格比較が中心で、企業・ホテル・インフルエンサー・コーヒーチェーン向けのカスタム需要は伸びている。Kidoは生産量を倍増する計画、Kinh Doは販路を約10万店に広げてShopee・Lazada・TikTok Shopでも展開、MM Mega Marketは供給量を20%増やす予定です。
安い方と、話題になった1種類だけが動いて、その間が薄い——Lazadaの9.9で「100ドル超が6割」という数字が出たのと、一見逆を向いているように見えます。ただし前者はベトナム国内の贈答菓子という特定の棚の話、後者はブランド訴求型キャンペーン期間のプラットフォーム集計で、母集団がまったく違います。同じ「東南アジアの消費」として足し合わせないほうが安全です。月餅商戦の立ち上がりは9月10日のトレンドウォッチで扱っています。
セールカレンダー: 9月25日が中秋節、プラットフォームの次の山は10.10
暦の山は9月25日の中秋節です。プラットフォーム主導の次の山は10.10で、Shopeeシンガポールの10.10 Brands Festival Saleの公式ページは2026年版が開いていますが、会期の明示は本稿執筆時点で確認できていません。Lazada側の2026年の10.10についても、各国の公式告知はまだ確認できていません。確認でき次第、常設のセールカレンダーに反映します。9.9の実績については上記のLazada・Shopeeフィリピンの2件を新たに反映しました。
短信
- インドネシア、EC売上の源泉徴収を10月1日開始に前倒し: Tokopedia・Shopee・Lazada・Blibliの4社が出品者の総取引額(VAT・奢侈品税を除く)の0.5%を第22条所得税として徴収する制度が、11月1日から10月1日に前倒しされました。対象は年間総売上5億ルピア超の国内出品者です。財務省税務総局長のBimo Wijayanto氏は「彼らも我々も準備はできている。ドラマはない」と述べています。この前倒しは、8月5日に延期を指示した前財務相Purbaya Yudhi Sadewa氏の更迭と、後任にSuahasil Nazara氏が就いたことを受けたものだと報じられています(Inside Retail Asia、Retail News Asia)。制度の中身は7月30日のトレンドウォッチで整理したものから変わっていません。日本発のShopeeはインドネシア非対応のため直接の影響は限定的ですが、インドネシア国内の出品者の採算が1段変わる月に10.10が重なる、という日程です
- 楽天が杭州に越境EC専門の現地法人: 楽天グループは9月16日、中国・浙江省杭州市に「楽天跨境電商(中国)有限公司」を設立したと発表しました(登記は8月24日、代表者は朱博氏)。中国の出店者を楽天市場に誘致・支援する拠点で、出店相談からセール参加支援までを担います。同社によると楽天市場の海外出店者は2025年に1,000店を超え、越境の流通総額は2020年から2025年にかけて年平均成長率30%超。中国の出店者は小型家電とアウトドア用品で強いとしています(楽天グループ)。日本の出品者から見ると、これは越境の「出ていく側」ではなく「入ってくる側」の話です
- 日本のスーパー「さえき」がベトナムで100店構想: 東京近郊で56店を展開するさえきが、3年以内にホーチミン市へ初の海外店を開き、最終的に100店規模を目指すと報じられています。中間層向けの小型店フォーマットで、従業員は日本国内の店舗で3年以上実務を学んでから現地の店舗運営・商品開発の研修に入る設計。さえき社長の佐伯行彦氏は「東南アジア進出の第一段階」としています。記事はQ&Meがホーチミン市とハノイの買い物客200人に行った調査を引き、店選びの最重視点は近さ(77%)、次いで価格と品ぞろえだとしています(Inside Retail Asia)。日本の商品がベトナムで並ぶ棚は、ECの外側でも増える方向です
- 8月の訪日外客数は309万9,000人で前年同月比9.6%減: JNTOが9月16日に公表した推計値です。1〜8月の累計は2,762万6,000人で前年同期比2.7%減。市場別では韓国が85万500人(+28.7%)、台湾が66万6,000人(+7.3%)、中国が41万8,000人(-59.0%)。減少幅の拡大は中国の落ち込みが主因で、東南アジアは季節的に需要が弱い時期にあたるうえ、タイとフィリピンでは減便と台風による欠航が影響したとされています。一方で14市場が8月として過去最多を記録し、その中にはマレーシアとインドネシアが含まれます(JNTO、トラベルボイス)。訪日体験が越境ECの入口として働く経路を見ているなら、全体の減少とマレーシア・インドネシアの最多更新は分けて読む必要があります
